研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究では、磁気秩序転移温度を絶対零度に制御した「量子臨界点」近傍においてしばしば現れる、非従来型超伝導に焦点を当て、絶対零度付近で増強された量子ゆらぎが超伝導状態にどのように影響するかを明らかにすることを目的としている。我々は鉄系高温超伝導体BaFe2(As,P)2において、P置換量を増加させるとともに反強磁性転移温度が抑制され、この「量子臨界点」を現実に観測しており、量子臨界点付近で超伝導が出現することを実験的に明らかにしている。実際の量子臨界点は超伝導ドームによって囲まれているため、転移温度以下の超伝導状態で量子ゆらぎがどのように現れるかを明らかにすることが非常に重要である。平成25年度においては、超伝導状態における低温準粒子低エネルギー励起を調べるための、純良微小単結晶試料を用いた極低温精密比熱測定システムの立ち上げを行った。装置の設計および作製、組み立てはほぼ完了しており、現在、温度センサの校正と測定プログラムの開発を同時に行っている。それと平行して、量子臨界点近傍の超伝導特性を評価する別の方法として、上部臨界磁場と下部臨界磁場の評価を行い、量子臨界点に近づくにつれて、下部臨界磁場が異常に増大することを明らかにした。それに対し、上部臨界磁場の増大は比較的小さいものであることがわかった。これらの臨界磁場の特徴的な振る舞いは、量子臨界点付近の超伝導状態において、磁場下での量子化渦糸のエネルギーが異常に増大していることを示唆しており、量子臨界点と超伝導の関連を議論する上で重要な情報を含んでいると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、量子臨界点近傍の超伝導状態における新しい概念である「ノーダル量子臨界性」の提唱と検証のため、極低温における比熱の精密測定を純良な微小単結晶試料を用いて行う。このために従来の緩和法を改良したより高分解能の比熱測定システムを開発することを当初の計画とした。平成25年度については、比熱測定システムの構築の最も重要な部分であるベアチップ温度センサを用いた長時間緩和比熱測定セルの設計、作製、組み立てについて完了した。年度途中に、研究代表者が京都大学より東京大学に異動したため、予備測定には至っていないが、現在行っている温度センサの校正、測定プログラミング開発については、以前より日常的に行っている作業であるため、近く終了見込みである。また、当初計画にはなかったが、研究協力体制にあるブリストル大学との共同研究により、量子臨界点近傍における臨界磁場の評価を行い、重要な成果を得た。鉄系高温超伝導体BaFe2(As,P)2単結晶試料において、P置換量を変化させて量子臨界点に近づくにつれて、電子の有効質量が発散的に増大することは以前からわかっていたが、超伝導状態における上部臨界磁場の増大は有効質量の増大から予想されるほどには増大しないことが明らかとなった。反対に下部臨界磁場については、予想をはるかに超える増大が観測され、このような異常な振る舞いは、量子臨界点近傍の超伝導渦糸状態が通常とは異なる状態となっていることを示唆している。このように、当初計画に比べやや遅れている部分と、予想していなかった成果を得られた部分があり、全体としては概ね順調に計画が進展していると判断する。
平成26年度においては、移動後の装置整備が完了し次第、精密長時間緩和比熱測定システムの構築を進める。特に温度センサの校正と測定プログラムの開発を早期に完了させ、実際の量子臨界点近傍の超伝導体試料における測定を行っていく。特に、以下の点に着目した研究を推進する。(1)当初目的としていた、量子臨界点近傍の超伝導状態における新しい概念である「ノーダル量子臨界性」の提唱と検証のため、鉄系高温超伝導体BaFe2(As,P)2純良微小単結晶試料における、ゼロ磁場下の低温比熱精密測定を行い、量子臨界点付近の試料と量子臨界点から離れた試料での相違点を明らかにしていく。(2)平成25年度の成果として明らかとなった臨界磁場の異常から示唆される、異常な渦糸状態についても磁場中測定により調べる予定である。特に、通常の超伝導体において知られている状態密度の磁場依存性とどのように異なる振る舞いが現れるかを精密比熱測定により明らかにしていく。(3)量子臨界点の存在が議論されている他の超伝導体についての測定も平行して行う。特に重い電子系超伝導体CeCoIn5およびCe2PdIn8の純良な単結晶試料について精密比熱測定を行い、量子臨界点近傍における超伝導状態の統一的な理解にむけて研究を行っていく。
研究代表者が平成25年度途中で京都大学より東京大学へ異動したため、研究計画に一部変更が生じ、使用予定であった寒剤の利用や海外への渡航を平成26年度に変更したため。平成25年度に完了しなかったシステムの構築と低温測定を平成26年度に行い、今年度に変更した寒剤の利用、海外での動向調査などを含めて、研究目的達成のために研究を遂行していく。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 8件) 備考 (1件)
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