研究実績の概要 |
金属中の同じ電子状態を有していた運動量k でスピン↑の電子状態と運動量k でスピン↓の電子は,結晶反転対称性が破れると,そのフェルミ面は2つに分裂して電子状態が異なってくる。この新たな電子状態を明らかにする目的で研究はスタートした。前年はカイラル構造の 2000 ℃以上の高融点化合物 VSi2, NbSi2, TaSi2 の純良単結晶を育成して,ドハース・ファンアルフェン効果実験とバンド計算からフェルミ面の分裂を研究した。本年度も新たな結晶反転対称性の破れた化合物 Rh2Ga9, Ir2Ga9, PdBiSe にチャレンジした。また,強磁性寸前の Co 化合物 SrCo2P2 に注目し,その電子状態を研究した。更に,Eu化合物の磁性とその電子状態を研究した。Eu化合物の大部分は通常2価(Eu2+)で磁気秩序を持つ。しかし,3価(Eu3+)の化合物も少数であるが存在し,その典型化合物が EuPd3 である。前年度は融点 1425℃の EuPd3 の純良単結晶育成に成功し,そのフェルミ面の性質を明らかにした。今年度は磁性状態を更に研究した。また,新たな3価の化合物 EuCo2Si2 の純良単結晶育成にもチャレンジした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度研究した Rh2Ga9, Ir2Ga9, PdBiSe, あるいは V2Ga9, CoGa3, TiGa3, ZrGa3, ZrAl3, 更に SrCo2P2, EuCo2Si2 等の化合物は,融点が高い遷移金属等を構成原子に含むので,様々な単結晶育成技術を駆使した。Rh2Ga9, IrGa9, V2Ga9, CoGa3, TiGa3, ZrGa3, ZrAl3, SrCo2P2 は Ga の自己フラックス法で,SrCo2P2 では Sn フラックス法を用いた。PdBiSe と EuCo2Si2 はブリッジマン法を用いた。特に EuCo2Si2 の融点は 1500 ℃ 近くと推定され,Mo るつぼに原材料を封入して行った。前年度に研究した VSi2, NbSi2, TaSi2 では四方からのアーク溶解での引き上げ法であった。特に本年度の研究成果で強調したいのは,立方晶カイラル構造の PdBiSe である。ドハース・ファンアルフェン効果からフェルミ面の分裂が明らかにされた。分裂の大きさは,PdBiSe の主成分である Pd-4d, Bi-6p, Se-4p 電子のスピン・軌道相互作用による。その主要フェルミ面の分裂の大きさは 1050~1260 K と大きい。しかし,神戸大学の播磨尚朝教授のバンド計算では分裂はその倍ぐらい大きい。このバンド計算は各原子の価電子のスピン・軌道相互作用を考慮したフルポテンシャルの LAPW 法である。この不一致を解消するために原子番号が大きい Z=82 の Bi-6p 電子の相対論効果の質量補正をバンド理論に取り入れた。その結果,フェルミ面の分裂は 1080~1150 K と実験値に一致することが分かった。ここで重要だったことは,原子番号が大きい Z=82 の Bi の遠心力ポテンシャルであり,方位量子数 l=1 ということが質量増大に大きく寄与することが分かった。つまり,Bi の 6p 電子の寄与である。まさに Bi-6p は相対論効果のディラック電子であることの電子状態への反映と言えよう。
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