本研究課題の目的は、データ駆動型の研究方法を物性物理の分野で展開することである。近年社会科学において注目されているビッグデータ解析は自然科学にも重要な問題であるが、社会科学と比較すると自然科学の問題の多くは基礎法則が整備されており、また特に物性物理の分野では計測データの精度が非常に高いことが特徴であると考えている。昨年度は磁性の問題の磁化曲線の観測データから磁気モデルを推定する方法論の整備を行った。磁場の関数として磁化の値を入力データとして,相互作用のモデルとそのパラメータを推定する枠組みはベイズ推定の枠組みで定式化することができる。この枠組みの計算は二重ループの構造を持ち、内側に統計力学の多体問題の計算があり、外側には推定変数のサンプリングがある。今回は相互作用推定のサンプリングには交換モンテカルロ法を用いることで、局所最適解にトラップされることを避けている。この成果は現在論文にまとめて投稿中である。さらに、扱う系を量子系に展開するためには内側計算が重いために十分な回数の外側計算の実行が困難となる。そのような状況でも推定がよくなる方法としてベイズ最適化の手法が有力である。今回はその試行を続け、モンテカルロ・サンプリングよりも状況によっては高速に推定できることを確認した。今後の様々な系への応用のために重要な知見であるとともに、条件整備が早急に望まれる。一方、別の問題として、大規模施設からのデータを想定して、中性子散乱実験から得られるスペクトルからの緩和時間分布推定の問題に着手し、実データ解析も含めたある程度の方向性を示すことができた。
|