研究課題/領域番号 |
25610104
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
檜枝 光憲 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (30372527)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | KT転移 / 量子渦 / トポロジカル欠陥 / 超流動 / ヘリウム4 / 3He-4He混合薄膜 |
研究概要 |
ヘリウム4薄膜にヘリウム3を不純物としてドープすると、コスタリッツ-ザウレス(KT)相(超流動)-自由渦相(常流動)の中間に新規ボルテックス相(ボルテックス-アンチボルテックス渦格子相、ヘキサティック渦相)が理論的に予見されている。本研究は混合薄膜系超流動の基礎研究を行うとともに、新規ボルテックス相の探索を行うものである。本年度は高周波振動子である水晶マイクロバランス(QCM)を使い、50mK~1Kにおいて主に60MHzの金基盤上ヘリウム3-ヘリウム4混合薄膜の超流動性の研究を実施した。ヘリウム3ドープ量を0~90μmol/m2の間で系統的に変化した測定から、ヘリウム3不純物による超流動密度の異常抑制効果を観測した。この超流動密度の異常抑制はヘリウム3ドープ量の増加に伴い大きくなっていくが、ヘリウム3オーバーレイヤーが1 layer程度に達するとこの異常は飽和する。エネルギー散逸ピーク温度のヘリウム4吸着量依存では、過去に他グループで実施されたマイラーやポーラス金の実験データとの比較検討から、基盤によらないユニバーサルな関数に乗ることを見いだした。KT繰り込み計算との定性的な比較を行った結果この異常抑制効果の原因として、①有限温度におけるヘリウム3オーバーレイヤーの超流動ヘリウム4中への溶解によるヘリウム4量子流体の局在化、②ヘリウム3不純物による渦芯エネルギーなどの量子渦に関係するパラメータの変化、の2つの可能性が考えられる。特にシナリオ②は有限温度における量子渦の数密度が劇的に増加するため新たな量子渦相の発現を期待させるものである。さらにいくつかの膜厚では周波数依存の研究を行い、渦芯サイズ、拡散係数を算出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね研究計画通り金基盤上ヘリウム3-ヘリウム4混合薄膜の超流動性の研究を実施し、ヘリウム4超流動のヘリウム3不純物による超流動密度の異常抑制効果を明らかにした。ヘリウム3ドープ量依存や測定周波数依存から、その異常抑制効果について現時点で考えられる2つの物理的シナリオを提示した。新規ボルテックス相(ボルテックス-アンチボルテックス渦格子相、ヘキサティック渦相)の有無に関わる基礎的な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き1~200MHzの高周波広帯域において金基盤上ヘリウム3-ヘリウム4混合薄膜の超流動性の研究を実施する。実験データとKT繰り込み計算の比較検討を実施し、ヘリウム3不純物による超流動密度の異常抑制効果のさらなる研究を続けそのメカニズムを明らかにする。また超流動密度・エネルギー散逸の温度変化と超流動ボルテックスパラメータ(拡散係数、渦芯サイズ、渦芯エネルギー)の観点から、新規ボルテックス相(ボルテックス-アンチボルテックス格子相、ヘキサティック相)の探索を行う。2次元超流体は多くの2次元物理系(超伝導体、磁性体、電子、冷却原子気体、結晶、液晶など)と共通性を持っており、得られた結果の共通性についても議論する。
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次年度の研究費の使用計画 |
低温物理研究には低温寒剤であるヘリウムが欠かせない。しかしながら2012年12月から始まった「ヘリウム・ショック」と呼ばれる世界的な供給危機により、5年前に比べるとその価格は3倍と急激に高騰している。これは研究立案時には全く予想できなかったことである。次年度において本研究を円滑に進めるために寒剤予算を確保しておく事が重要と考え、本年度の必要物品を必要最小限に押さえ、また備品も中古を購入するなど工夫することで、節約分を来年度予算として使用する。 次年度予算の使用内訳は、超低温実験に必要な寒剤(液体ヘリウム、液体窒素)、高Q値を持つ高安定水晶振動子の購入、超低温における温度測定に必要な半導体抵抗温度センサー、真空部品(バルブ、配管)に充てられ、実験の維持に必要不可欠な出費である。成果発表のため、日本物理学会、低温物理国際会議(LT27)などへの国内外の旅費と、論文投稿費、英文校正代も計上する。
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