研究課題/領域番号 |
25610106
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
長峯 祐子 山口大学, 理工学研究科, 研究員 (50344049)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 非平衡開放系 / 相分離 / 銀 / アンチモン / 時空間パターン / モデル化 / 数値シミュレーション |
研究概要 |
従来、振動反応に伴う時空間パターンは、反応拡散メカニズムで説明されてきた。このメカニズムでは、物質の酸化・還元の状態の違いがパターンとして観測され、その時間変化が、伝搬パターンになると理解されている。近年発見された、電極表面上に発生する銀とアンチモンで形成される時空間パターンは、白い縞は銀リッチで、黒い縞は酸化アンチモンリッチになっており、物質の濃度の違う2相が縞を形成して伝搬することで、時空間パターンが形成されている。この現象は従来の反応拡散メカニズムでは説明できない。そこで本研究では、非平衡開放系で生じる「伝搬するパターンを誘起する相分離(異種物質間の空間的な分離)」としてこの現象を捉え、モデルを構築し、数値シミュレーションによりモデルの妥当性を確認することを目的としている。 本年度は、銀は導体で、酸化アンチモンは絶縁体であるため、電極表面上の時空間パターンの基本モデルとして「定電場が印可された、導体絶縁体混合系」を仮定し、Onsagerの変分原理とCahn-Hilliard方程式を組み合わせた独自のモデルを導出した。その式を、コンピューター上での数値シミュレーションにより、定電場の2つのモード、定電流モードと定電圧モードで、相分離の時間発展を考察した。その結果、定電流モードでは、電場の印加が、相分離を誘起するのに対し、定電圧モードでは、電場が印加されても、相分離が誘起されないというシミュレーション結果を得た。この結果は、銀とアンチモンの時空間パターンが定電流モードで発生し、定電圧モードではほとんど発生しないという実験結果と一致しており、モデルの妥当性を支持した結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(平成25年度)では、「定電場下における導体絶縁体の相分離の理論式の構築とそのシミュレーション」を実行するため、基本モデルとして「定電場が印可された、導体絶縁体混合系」を仮定し、Onsagerの変分原理とCahn-Hilliard方程式を利用してモデルを導出すること、及び、その式を、コンピューター上での数値シミュレーションにより、定電場の2つのモード(定電流モードと定電圧モード)で、それぞれの相分離の時間発展を考察することを、研究内容として計画していたが、その研究内容はほぼ遂行できたと考えられる。さらに、本年度は、その研究成果を英文論文にまとめるに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、前年度(平成25年度)に得られた結果でまとめた英文論文を、国際ジャーナル紙に投稿するつもりである。また、さらに、前年度に提案したモデルで誘起される、「定電流モードでの相分離」の、数値シミュレーション結果の振舞を、細かく調査するため、導体絶縁体混合系における、導体及び絶縁体の濃度比や、各物理定数を変化させて数値シミュレーションし、その結果を別の英文論文にまとめるつもりである。 一方で、平成26年度以降の研究計画に記述した、「定常的に動き続ける性質に寄与している“定ストライプ幅の保持”のシミュレーション」を行うため、前年度に構築したモデルに荷電の効果を加えて、数値シミュレーションし、相分離の挙動を観察する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、研究計画に記載されている研究内容をできるだけ遂行するため、研究業務に専念することを優先した。その結果、学会での発表活動及び、他機関の研究者との研究打ち合わせを、予定通りに行うことができず、当初予定していた旅費を使用することができなかった。また、当初の計画では、本年度得た研究成果を、本年度内に英文論文にまとめて投稿することを予定していたが、実際は、英文論文にまとめるところまでしか遂行できなかった。その結果、英文校閲費、及び、投稿費用が使用できなかった。 当該年度に研究成果を得ることができたので、使用できなかった旅費分を、翌年度に使用して、活動的に学会で研究成果を発表し、また、他機関の研究者との研究打ち合わせをも盛んに行ってゆく予定である。また、当該年度にまとめた英文論文を、まず、次年度の初めに投稿して、繰り越した助成金(英文校閲費及び、投稿費分)を使用する予定である。
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