研究課題/領域番号 |
25610108
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
藤本 雅文 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (30261176)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 統計力学 / 数理物理 / 格子模型 / 相関関数 / 平衡形 / 代数曲線 / シミュレーション |
研究概要 |
八頂点模型の転送行列固有値の数値計算を行う予定であったが、ポッツ模型の相関関数をモンテカルロ法で解析する計算が、より有効であることがわかり、先ずこれを実行した;この点は、連携研究者である首都大東京の大塚博巳氏との議論による。Q状態ポッツ模型は、Q=2がイジング模型に対応する他、相転移点直上で六頂点模型と等価になることが証明されている。シミュレーションに関しても効率の良いアルゴリズムが確立されており、このアルゴリズムを利用して、ポッツ模型の相関関数をモンテカルロ法で評価した。相関関数の長距離における漸近形を、高精度で評価しなければならない困難があり、状況に応じて、東北大サイバーサイエンスセンターを利用した。 結果、(1)高温相において、相関関数の長距離での漸近形を高精度で評価することに成功;(2)Q=2(イジング模型)の厳密解を再現するとともに、Q=1,3,4の相関関数は、これからずれること;(3)ずれは、Qの変化に応じて一定の傾向があり、(4)Q=1,2,3,4の漸近形は、全て、普遍的代数曲線で極めてよくフィットできることが示された。 今回の研究は、転送行列計算を一つの基礎としており、転送行列法の対象外であるQ=1(ボンドパーコレーション)についても、普遍的代数曲線が得られたことは、議論の適用範囲がより広いものであることを予想させる。また、Q>2については、裏格子変換を経て、転移点以下の低温相における平衡形の決定もできたことになる;ポッツ模型の平衡形に関しては、厳密に導出されたイジング模型の場合と非常に似通ったものになることは知られていたが、ずれの存在が示されただけでなく、それが定量評価できたことは、これまでにない全く新しい成果となる。 Q=4の対数補正項の存在、ポッツ模型における臨界指数の計算等、これまでに知られた結果の確認にも一定の成果が得られたことを付け加えたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Q状態ポッツ模型について、Q=2(イジング模型)の場合とQ>4の一次転移点直上では、相関関数が簡単な代数曲線で表示されることが、これまでにおこなわれた厳密計算でわかっている。25年度に得られた結果は、この代数曲線が可解模型の枠を越え、二次元格子模型一般に現れるものであることを強く示唆するものであり、特に、予想以上の高精度でこの結論を得ることができた点を強調したい。交付申請書の段階では、正方格子等、4回対称性を持つ格子を前提とした計画であったが、ポッツ模型のシミュレーションは、三角格子等、6回対称の系にも適用できる利点があり、予備計算の段階ではあるが、(6回対称の系についても)当初計画した以上の成果が得られる見込みである。 一方、八頂点模型の転送行列固有値の解析はやや遅れており、これからの(26年度の)研究計画となる。ただ、ポッツ模型と八頂点模型は相互に関係があり、25年度に得られた結果が有力な手がかりとなる:八頂点模型の転送行列固有値の関数形が、ほぼ特定できることになる。この点をふまえて解析を行えば、十分期間内に計画を完了できるものと考える。 以上を総合して、おおむね計画通りに研究は進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に得られた結果を順次発表するとともに、引き続きポッツ模型のシミュレーションを行い、これをふまえて八頂点模型の転送行列固有値の解析を行う。 相関関数の漸近評価をシミュレーションする場合、レアな事象を数多くサンプリングしなければならない困難があった。ポッツ模型に関しては、効率の良いアルゴリズムが確立されており、加えて、現在の(スーパー)コンピュータの性能であれば、高精度で結果を得ることが十分可能であることがわかった。結果、ポッツ模型のシミュレーションは、より直接的に、普遍的代数曲線の存在を明らかにする非常に有効な手法となり、先ず、これを実行する。(25年度に引き続き)26年度は、三角格子上のポッツ模型について同様のシミュレーションを行う。三角格子上のポッツ模型の解析にも、全く同じアルゴリズムが適用でき、予備計算の段階ではあるが、普遍的代数曲線の存在を示唆する結果が既に得られている。 八頂点模型に同じ効率的なアルゴリズムを適用することはできないが、ポッツ模型の結果をふまえて、転送行列の数値対角化を行う計算が有効な方法となる;ポッツ模型とイジング模型、六頂点模型との関係を考慮すれば、(イジング模型、六頂点模型の一般化である)八頂点模型の転送行列固有値の決定に有力な手がかりとなる。ポッツ模型の相関関数が普遍的代数曲線で表示されることから、八頂点模型の転送行列固有値が、全般にSN関数で表示できることが示唆できる。正方格子のRow方向と対角方向に転送行列固有値の数値計算を行い、温度変化を含めてうまくSN関数でフィットできれば、八頂点模型の臨界指数における弱い普遍性の構造と、普遍的代数曲線の密接な関係が示せたことになる。普遍的代数曲線は特異曲線になるが、その代数構造に着目すれば、代数幾何学の基本概念である双有理同値の概念と弱い普遍性の対応が示唆できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入予定のデスクトップコンピュータ(Apple Mac Pro: 3.7GHz クアッドコア;2013年12月発売)の25年度内購入が間に合わなかったため、相当の費用を同機種購入費用として次年度に繰り越した。 25年度に購入予定であった(Apple Mac Pro: 3.7GHz クアッドコア)を購入し、他は、交付申請書の計画通り使用する。
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