1)水の誘電分極を大規模計算に基づき調べた。以下を明らかにした。伝統的な誘電体理論では個々の分子に働く局所場は印加電場に比例した弱い場であると仮定しているが、水では局所場が巨大である。それは水素結合で結びついた近接他分子の酸素からの電場寄与が非常に大きいからである。すると各分子の双極子は局所場にほぼ平行になり、誘電分極は水素結合構造の動力学に支配される。更に電極があるとその表面電荷揺らぎは内部の水分子分極揺らぎに大きな影響を与える。2)酸素などのガスを微量に水に昆入させるとナノバブルと呼ばれる小さな安定気泡ができる。我々はこの現象が酸素分子の水中での水和効果に起因することを明らかにした。詳しい計算として、密度汎関数法に基づく気泡の平衡条件や動力学の解析も発表した。3)臨界点に近い2成分溶液中のコロイド粒子の集合現象は有名である。我々は接近したコロイド粒子の間隙に局所的な相分離(bridging)が起こることを理論的に示しその動力学を調べた。この現象では溶媒の相転移によりコロイド間に界面張力に起因する大き引力が発生する。4)通常の塩は親水的なカチオンとアニオンに分かれて水の中で電離する。ところが電荷が大きな分子に埋め込まれた場合には疎水性イオンができる。そこで我々は親水性カチオンと疎水性アニオンを2成分溶液に溶かした場合の新規な現象について調べた。5)水と接する固体表面ではイオン化が起こり表面電荷が発生する。この場合、イオン乖離度は表面近くのイオン濃度や電位や溶媒組成に敏感に依存している。我々は壁からプロトンが放出される場合にどのように電離度が外部電場に依存するか調べた。
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