研究課題
今年度は、前年度までに実施したミュオンスピン回転実験の結果、特に、ルチル型SiO2(スティショバイト)中で正ミュオンが電子を束縛してミュオニウムとして存在することを好むことについて、論文として学術雑誌に発表することに全力を挙げた。この実験手法が地球惑星科学において前例のないものであり、また、実験結果がマントルにおける水素の存在形態に関する定説、すなわち、水素が水酸基(=水)として存在することに疑問を呈するものであったために、出版までに多くの時間と労力を要した。実験結果に基づき、スティショバイト中で、水素が小さく異方的な格子間空隙に押し込められた中性原子状態で存在する可能性が高いことを示し、地球深部マントルにおける水素の存在形態としても、これまでの研究では想定外であった中性原子状態を検討する必要性について報告した。実際のマントル中に、中性水素が存在するか否かを明らかにするためには、生成エンタルピーの正確な計算など、ミュオン実験とは異なる手法も含めて、多角的・総合的に研究を進める必要がある。本課題で進めているミュオン実験に関しては、スティショバイトに関する論文の出版を受けて、現在、スティショバイトと同じ構造で異なる組成のルチル型GeO2(アーゲタイト)や地球下部マントルの最重要鉱物であるペロフスカイト型MgSiO3(ブリッジマナイト)などに対する実験結果を整理して論文として出版するための準備を進めている。
3: やや遅れている
地球惑星科学では前例のない実験手法により、マントルにおける水素の存在形態に関する従来の定説に一石を投じる論文を出版できた。一方で、出版までに多くの時間と労力を使い、新しい実験を進めることができなかった。
高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所に平成27年4月1日付で移動した。異動先は、J-PARCのミュオンビームラインを整備・運営する組織でもある。ミュオン実験の専門家との一層の連携により研究を推進する。
第一報を学術雑誌に出版するために、予想以上に多くの時間と労力を使うこととなり、新しい実験を進めることができなかった。
地球のマントルに、中性水素が存在するか否かを明らかにするために、ミュオン実験を中心に据えながら、ミュオン実験とは異なる手法も利用して、多角的・総合的に研究を進める。ミュオン実験のための費用の他、その結果を補強するような実験や計算を行うための費用にあてる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 4件) 図書 (1件)
High Pressure Research
巻: 35 ページ: 123-129
10.1080/08957959.2015.1028931
Scientific Reports
巻: 5 ページ: 8437
10.1038/srep08437
Physical Review B
巻: 91 ページ: 014106
10.1103/PhysRevB.91.014106