本研究では,土壌,泥炭,湖沼堆積物中に残されている植物遺骸のセルロースの酸素同位体比を分析することにより,降水の酸素同位体比に関する情報を得る手法を確立する.堆積物から植物片を集めてセルロースのまま熱分解同位体比分析計で測定する方法を検討した.研究の途中で,セルロースと間隙水の酸素同位体比を比較することがセルロースの酸素同位体比を解釈する上で重要であることに気がつき,利尻島南浜湿原で泥炭コアをピートサンプラーを用いて採取した.泥炭を構成する植物の種類を同定し,記載した.泥炭コア2本から計200試料を選び,間隙水の抽出を行った.含水率から1m深前後に地下水面があることが明らかになった.また植物遺骸を8種類前後に形態別に分け,それぞれについてリグニン分解を行い,セルロースを精製し,その酸素同位体比を測定した.ミズゴケの酸素同位体比は3000年前から2000年前にかけて負方向にシフトし,降水酸素同位体比が軽くなったことが示唆された.植物片とミズゴケの酸素同位体比の差は,2000年前でもっとも大きく,相対湿度が低かったことが示唆された.これらの結果は花粉組成から推測される環境変化と調和的であった.植物片とミズゴケを分離してセルロース酸素同位体比を分析することにより,降水酸素同位体比と相対湿度の復元を行うことができることが期待された.手法上の成果としては,間隙水の抽出方法としては遠心分離による方法がもっとも効率的であった.植物遺骸を集める方法としては、ピンセットを用いて肉眼で観察しながらピックアップしてゆく方法が,時間はかかるが,最も確実であった.セルロースの精製方法については,樹木年輪分析で従来から用いられている方法が有用であった.この方法は水溶液中で煮込むので,そのさい不純物を取り除くこともでき,泥炭試料分析に向いていることが分かった.
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