水は,地球表層部では表層環境や生命の進化に,地球内部ではマントルダイナミクス・マグマ活動に重大な役割を果たしている.また,地球表層~内部の水は,海洋プレートの沈み込みやマグマ活動(脱ガス)を通じて,大規模に循環している.本研究では,原始地球において水がマグマ活動に果たした役割を理解し,さらには,地球史を通した水の大規模循環を追究することが最終目標であった.具体的には,様々な結晶化年代をもつアパタイトから,その親マグマ及び起源マントルの含水量を推定し,マントル含水量の経時変化を明らかにすることを目指す.その研究の第一歩として,本申請書の研究期間内では,アパタイトを用いたメルトの含水率定量法の確立を行った. 含水率定量法を確立するために,納沙布岬貫入岩体において地質調査を実施し,貫入岩体から未分化な岩石から分化した岩石を系統的に試料採取し,それらからアパタイト鉱物を分離してその微量元素組成や水,塩素,フッ素の量を分析して,アパタイトの含水率計としての有用性を検討した。 その結果,微量元素を用いることで,アパタイトの晶出時期を特定することができ,また,比較的未分化なメルトから晶出したアパタイトと分化したメルトから晶出したアパタイトで水や塩素,フッ素の含有量が系統的に異なることを明らかにした。これらの結果は,アパタイトがマグマ分化に伴う脱ガス過程や結晶分別過程を記録していることを示すものであり,微量元素濃度と組み合わせることで,より初生的なマグマの含水率を推定することが可能であることを示す。
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