研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究は、哺乳類に固有の構造である横隔膜が、進化の中で新規形質としてどのように獲得されたのかを発生学的および古生物学的証拠をもとに解明することを目標にしている。哺乳類以外の脊椎動物には横隔膜に類似する筋はないため単純な比較解剖学ではその進化的起源を突き止めることはできなかったが、筋前駆細胞の移動ルートと脊髄神経とりわけ腕神経叢の配置の対応関係に注目し、化石種を調べて祖先動物の腕神経叢の分布を復元することにより、「横隔膜は祖先動物の肩甲下筋から分かれて進化した」という仮説を新たに提示することに成功している。マウス胚連続組織切片の3次元再構築によっても、先行研究と同様に、横隔膜前駆細胞が肩帯の筋前駆細胞と連続した集団から発生してくる様子が捉えられた。また、ニワトリ胚を用いた細胞系譜解析(ウズラ-ニワトリ側板中胚葉交換移植実験)により、頚部の側板中胚葉は胚発生過程における心臓の後方移動にともない、胸郭内部にまで分布することを発見した。これにより、哺乳類で見られる腕神経叢レベルの体壁が発生とともに胸郭内部の胸部-腰部境界にずれるようになるという現象は、羊膜類で共通して見られるものであると示唆される。さらに、体節から生じる横隔膜前駆細胞が胸部-腰部境界にまで達しそこで筋に分化するという現象の背後には、心臓の後方化にともなう周囲の側板中胚葉の変形により筋前駆細胞が受動的に運搬されるというメカニズムが存在する可能性が見出された。
2: おおむね順調に進展している
ニワトリ胚を用いた細胞系譜解析(ウズラ-ニワトリ側板中胚葉交換移植実験)により、胚発生における心臓の後方化と関連した側板中胚葉の変形が可視化でき、羊膜類に共通して見られるとおぼしきこの現象を基盤にして哺乳類系統で横隔膜が前肢筋の一部から進化したという仮説の整合性が高まった。
平成25年度研究を進めている中で、Hoxコードや前肢筋の発生等に関わる遺伝子制御に関する論文がいくつか出版された。どれも横隔膜の発生を扱ってはいなかったが、これらの新しい知見にも十分精通してマウスにおける横隔膜発生を解析していく必要がある。また、平成25年度の自身による研究により、横隔膜前駆細胞は側板中胚葉の変形により受動的に胸部-腰部境界まで運搬されている可能性が見出された。今年度は、この可能性にも目を向けて研究を進める。一方、今年度は、化石標本の調査研究も計画している。特に、初期単弓類の肩帯骨格にどのように筋が付着していたのかを再検討し、横隔膜が肩甲下筋から分かれて進化してきたという仮説を検証していく予定である。
平成25年度は、ニワトリ胚を用いた細胞系譜解析(ウズラ-ニワトリ側板中胚葉交換移植実験)において新展開があり、マウスの実験よりも優先してそちらを進めたため、当初の計画とずれが生じることとなった。また、胚発生を3次元モデルとして観察するためのコンピューター環境の整備も、より適した性能のモデルの発売に合わせたため、年度末に本格的に進めることになり、次年度に請求させていただくこととなった。上記のように新たな知見が得られたことにより昨年度は研究を進める順序を変更したが、今年度はマウス胚における横隔膜発生の遺伝子発現パターン解析について申請書にある今年度計画分よりも規模を拡大して展開する。
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