研究実績の概要 |
本研究では、哺乳類に固有の構造である横隔膜が、「祖先動物の肩甲下筋から分かれて進化した」という仮説の検証を進めてきた。前年度、ニワトリ胚を用いた側板中胚葉の細胞系譜解析により、横隔膜の結合組織を形成する領域が胸郭内部へ入り込むような体壁の変形は哺乳類独自のものではなく鳥類にも見られるものであることを明らかにした。これは上記の仮説と整合的である。 平成26年度は、胚発生における遺伝子発現パターンの中に「前肢筋の部分的重複」の痕跡がないかどうか探索するため、マウスとニワトリを用いて、横隔膜および前肢筋が発生する領域の遺伝子発現パターンの種間比較を進めた。マウスに関してはこれまでに多くの先行研究があるが、ニワトリに関しては研究例がほとんどなく、本研究の種間比較により、特に側板中胚葉における遺伝子発現パターンは両者で異なることが明らかとなった。これまでに、Hoxa4, Hoxb4, Hoxa5, Hoxb5, Hoxc5, Hoxc6, Gata4について、ホールマウントおよび切片のin situハイブリダイゼーションを複数の発生ステージの胚に対して行い、時間的変化も含めて、発現パターンの種間比較を完了した。Hoxc4, Hoxd4, Hoxa6, Hoxb6についても発現パターンの種間比較を進めているところである。これまでの結果、側板中胚葉におけるHoxc5発現領域が上記仮説と整合的であり、ノックアウトマウスを使った実験的検証の準備を進めている。 また、平成26年度は、スミソニアン博物館で初期単弓類の化石標本を調査し、特に、保存状態の良いオフィアコドンOphiacodon骨格を研究した結果、生息時の肩帯骨格の形態や筋の付着部位について従来よりも詳細な復元が可能となった。結果、初期単弓類における肩甲下筋は、横隔膜へと進化することが可能な位置にあることが確かめられた。
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