研究課題/領域番号 |
25610156
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
近藤 忠 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20252223)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 氷 / 相転移 / 磁化率測定 / SQUID |
研究概要 |
水・氷は宇宙空間で最も豊富で普遍的な物質の一つとして知られており、た構造転移も多数知られている数GPaまでの氷は氷天体の内部構造や進化、表面地形の解釈を行う上で大変重要な物質である。H2Oを磁性の観点からみれば反磁性物質で外部磁場に対しては他の反磁性体に比べても極端に弱い磁化率を示すが、X線的には区別が難しい僅かな水素位置の変化も磁化率の変化として捉えることができる可能性がある。そこで本研究では超高感度磁化測定装置であるSQUID(超伝導量子干渉素子)を用い、これらの相転移に伴う僅かな磁化率変化をとらえることを主眼に置いて研究を進めた。初年度の平成25年度は、既存のSQUIDを用い、純粋なH2Oの30K-300Kの温度領域における磁化率変化の特性を調べた。この温度範囲では273K付近の固-液転移の他に、Ih相-XI相の相転移境界を横切る可能性がある。実験の結果、固液の相転移に関しては再現良く磁化率の僅かな変化を捉えることができて、より低温下では試料以外の原因とみられる磁化率のジャンプが幾つか観測された。Ih相-XI相との相転移境界は60-70K付近と予想され、昇温過程の測定で80K付近にも不連続が見られる事が解ったが、これは窒素の液化温度と近いため、更なる検証が必要であることが分かった。また、温度調整のステップ変化に対しても、僅かに磁化率が測定することも新たに分かったため、今後の測定条件に関して注意が必要であることが分かった。また、高圧下での測定の準備として、ピストンシリンダー型セルと、圧力測定に優れるダイヤモンドアンビルセルの2つの装置を改良してSQUIDでの利用に最適な素材とバックグランドシグナルを考慮して、デザインの検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、氷の相転移の新たな検出手段としての磁化率測定の可能性を検討することである。この検出方法では水素の位置変化を直接見ているわけではなく、僅かな構造変化に対するスピンモーメントの差を見ることである。そのためには試料以外に起因する磁化率変化をどこまで考慮できるかということが、研究の中心的な作業になるが、本年度は常圧でバックグランドが比較的良くわかった試料内での温度変化に伴う磁化率変化を解析する予定で研究を進め、ほぼ装置に付随する問題点を明らかにすることができた。また、低温下で変動する可能性がある圧力を直接測定するためのルビー測圧システムを構築するための、小型分光器を導入し、光ファイバーを装置内に入れた側圧システムの構築を進めた。これまで気にする必要が無かった磁化率変化の僅かなバックグランド変化としての装置関数の洗い出しは、今後、高圧下での測定を進める前段階として必ず必要になるステップであり、本年度はその概要を得ることができたため、ほぼ予定通りの進行状況と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は高圧容器の磁気的バックグランドの温度変化のデータを取得し、試料周辺にある試料以外の磁気的変化の総和を検証して、純粋な試料由来のシグナルだけを取り出す必要がある。本来なら個々の部品に対する独立した磁化率変化を全て取得しておくことが望ましいが、近年では本実験に不可欠な寒剤としての液体ヘリウムの供給に不安があるため、実験は限られた回数で行う必要がある。そこでいくつかの纏まった部品単位で、予め高圧容器内部の磁気的バックグランド評価を行い、試料との差分を検証しながら相転移の検出を試みていく予定である。このためには他の液体を用いた相転移検出の校正も含めてバックグランドの正確な値を各実験で最適化できるように、現在自動で処理を行っているバックグランド処理を、手動で演算させて寄り信頼度の高い信号を得られるようにデータ処理の手続きに関する改良を進めていく。また、低温下ルビー測圧システムの更なる整備を進めて、相図上の正確な位置を知ることができる事を目指す。
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