H2O は宇宙空間でも最も豊富な物質の一つであり、低温下での氷の相転移条件を知ることは重要である。構造変化の中には僅かな水素位置の検出を要するため、実験室で簡便に相変化を検出することは容易ではない。しかし、これらの転移では僅かな磁化率の変化が起こることが知られており、もし試料の磁化率変化を精度良く測定できれば実験室でのH2O系の相転移を検出できる。最終年度は、これまでに取得した氷や水、塩水系のSQUID(超伝導量子干渉計)を用いた純水の磁化率の温度変化に対するデータ解析を進め、また、装置特性に起因する僅かな磁化率変化が実験結果に影響しないかを調べるため、通常測定の他に幾つかのブランク実験も行った。その結果、純水及び塩水の低温及び高圧下での磁化率温度依存性データからは、1成分系と2成分系で、熱力学的な二相共存領域の有無(自由度の変化)に対応し、転移幅が明瞭に区別できること、冷却速度の違いによって氷の結晶サイズや選択配向が異なる影響と思われる磁化率の絶対値の差が見られること、その差は昇温過程で液体に転移すると同じ磁化率に揃うこと等が分かった。一方で、70K付近で磁化率の温度依存性の変化が見られるが、試料容器に用いているテフロンカプセルの影響の可能性があることも明らかになった。固相から液相になる温度付近では磁化率の安定性が大きく異なり、相転移中は磁化率の誤差が急に減少する傾向も見られた。これらは複数の観点から試料の状態変化を確認できる事を意味している。また、120K付近で磁化率の僅かなジャンプが複数回観察され、 可能性としては1c-Ihの転移がありうるが、確認はできなかった。また、80K付近にジャンプが見られる場合があり、これは空気中の窒素混入の可能性も残っている。以上、本研究により、これまで殆ど観察されていないH2O系の磁化率マップの生成が可能であることを示した。
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