研究課題
挑戦的萌芽研究
珪酸塩メルト中の硫黄の価数は狭い酸素雰囲気の範囲で2-から6+に急激に変わるのでマグマの酸素雰囲気のよい指標になるが、その研究例は極僅かである。適切な試料を用いないと脱ガスや結晶分化により元のマグマの酸化還元状態を保持していない可能性がある。本研究では放射光施設(SPring-8)で、硫黄の価数の割合を決める条件を見出し、すでに準備してある島弧火山に含まれるクロムスピネル中の未脱ガスなメルト包有物を分析して現在も未確定である島弧マグマの酸化還元状態を正確に見積もることを目的とする。平成25年度は日本で唯一硫黄の化学形態の局所分析ができるビームライン(SPring-8 BL27SU)の利用申請を行い、希望したビームタイムをフル(96時間)で獲得し、ボニナイトと島弧ソレアイトに含まれるクロムスピネル中のメルト包有物のメルト包有物を分析した。予察的に測定した中央海嶺玄武岩や海山・海台の火山岩の全硫黄に対する6価硫黄の割合と較べて沈み込み帯の火山岩のそれらは極めて高く、酸化的であったことが示唆される。その結果、ウェッジマントルは酸化的であることを明らかにし、最近注目されている説(島弧マグマの酸素分圧は一般的な上部マントルのものと変わらず、結晶分化に伴い酸化的になるという説)を覆した。さらに沈み込み帯での形成ステージの異なる島弧火山(沈み込み帯形成初期:ボニナイト、定常期:向島ソレアイト)の全硫黄に対する6価硫黄の割合の違いにより、沈み込み帯形成から時間と共にウェッジマントルの酸素分圧が増加しているという変遷を見出せた。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度、SPring-8のビームタイムを96時間得られた。使用したビームラインではこれまでに火山ガラス試料の硫黄化学状態を分析したことがなかったため、分析値の再現性の検証や分析ルーチンを作るのに時間を有したが、SPring-8での分析を軌道に乗せることができて、島弧マグマが酸化的であるという十分なデータを得ることができた。島弧マグマの酸素分圧を決められ、その副産物として火山ガラス試料の硫黄化学状態はマグマの酸素分圧を正確に求めるのに非常に強力なツールであることを見出せた。平成26年度もSPring-8でのビームライン利用申請が採択されたので引き続き、島弧マグマの酸素分圧の見積もりを行うとともに、別のテクトニックセッティング(中央海嶺や海山)の酸素分圧の見積もりを本研究を通じて確立した手法を用いて行う。現在は平成25年度に行った分析結果をまとめて2014年4月28日から5月2日に開催された日本地球惑星科学連合大会と6月8日から6月13日にアメリカ、カルフォルニア州サクラメントで開催されるゴールドシュミットコンファレンスにて口頭発表をする。また近日中に一流誌に投稿するため論文を執筆中である。
平成26年度のビームライン(SPring-8 BL27SU)の利用申請を行い、希望したビームタイムをフル(96時間)で獲得した。平成25年度の分析で本研究の主目的である島弧マグマの酸素分圧の見積もりに関して大半のデータが揃ったので平成26年度のビームタイムでは島弧マグマの酸素分圧に関する補足データを得られたら、以下に述べる未脱ガス火山ガラス試料を対象として研究に発展させる予定である。硫黄化学形態分析によって僅かな酸素分圧の違いを議論できるのは本研究の最大の成果である。この成果を踏まえ、主に地球上の火山活動場を代表する海洋プレート拡大境界(中央海嶺)、収束境界(沈み込み帯)及び海洋プレート内海山、海台という3つの異なるテクトニックセッティングの深海底で採取され脱ガスの影響が少ない火山ガラスとそれらに含まれるメルト包有物の硫黄化学形態を分析して各々のマグマの酸素分圧を見積もり、火山ガラスの主要、微量、揮発性成分と併せ、酸化還元状態を含めた地球内部の物質循環モデルを構築する。
平成25年度は、購入予定であった高額の備品(マイクロサンプリングシステム)を導入せずとも分析可能な試料を研究対象としたため。平成26年度は上述のマイクロサンプリングシステムが必要な微細試料を分析する予定なので、本備品を購入する。
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Earth and Planetary Science Letters
巻: 365 ページ: 177-189
10.1016/j.epsl.2013.01.010
巻: 383 ページ: 37-44
10.1016/j.epsl.2013.09.023