研究課題/領域番号 |
25610160
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
清水 健二 独立行政法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, 技術研究員 (30420491)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メルト包有物 / 硫黄化学形態 / 放射光施設 / 島弧玄武岩 / ボニナイト / 酸化還元状態 |
研究実績の概要 |
珪酸塩メルト中の硫黄の価数は非常に狭い酸素雰囲気の範囲で2-から6+に急激に変わるのでマグマの酸素雰囲気の良い指標になるが、その研究例はごく僅かである。適切な試料を用いないと脱ガスや結晶分化の影響により元のマグマの酸化還元状態を保持していない可能性がある。本研究では放射光施設(SPring-8)で、硫黄の価数の割合を求める分析条件を見出し、すでに濃度や硫黄同位体比を記載している島弧火山岩に含まれるクロムスピネル中の未脱ガスで初生的な情報を保持するメルト包有物を分析して現在も論争中である島弧下マントルの酸化還元状態を見積もることを目的とする。 平成26年度は世界で唯一高輝度で微量な硫黄の化学状態の局所分析可能なビームライン(SPring-8 BL27SU)の利用申請を行い、96時間のビームタイムを獲得し、ボニナイトと島弧ソレアイトに含まれるクロムスピネル中のメルト包有物を分析した。予察的に測定した中央海嶺玄武岩ガラス、海台・海山の玄武岩ガラスの全硫黄に対する6価硫黄の割合と比べ、沈み込み帯の火山岩のそれらは極めて高く、酸化的であったことが示唆された。その結果、ウェッジマントルは酸化的であることを明らかにし、最近注目されている説(島弧マグマの酸素分圧は一般的な上部マントルのものと変わらず、結晶分化に伴い酸化的になるという説で例えばLee et al., Science, 2012)を覆した。さらに沈み込み帯での形成ステージの異なる島弧火山(沈み込み帯形成初期:ボニナイト、定常期:向島ソレアイト)のS6+/ΣSの違いにより、沈み込み帯形成から時間と共にウェッジマントルの酸素分圧が増加しているという変遷を見出せた。本研究の結果をまとめて国際学会にて発表した。現在は一流誌に投稿するため論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25-26年度の2年間にSPring-8のBL27SUのビームタイムを合計192時間獲得して、島弧火山に含まれるクロムスピネル中のメルト包有物の硫黄化学形態の分析を行ったが、装置の光学観察系の解像度が非常に乏しく、微細な試料の位置値決めに想定以上の時間を要し、十分なデータ数を得ることができなかったため、平成26年度に予定していた論文投稿が叶わなかった。 しかし、この2年間で試料の位置値決めを迅速に行う方法を確立した。試料ホルダー中に3つ以上の蛍光板を位置アンカーとして埋め込み、蛍光板と分析する試料の座標を予め求めておいて、分析装置上でアンカーである蛍光板の座標を決めて、座標変換して分析装置での試料の座標を求めるという方法で、迅速に分析点を見つけられる。また、分析した生のスペクトルを迅速に解析するプロトコルを平成26年度に調達したソフトウェアのMatlabで開発した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度のSPring-8のビームライン利用申請を行い、引き続き、確立した分析試料の位置決め法とスペクトル解析プロトコルを用いて、島弧火山岩に含まれるメルト包有物の硫黄化学形態の分析をし、これまでの分析結果と合わせてデータを解析して、論文を投稿するとともに国際学会にて成果を発表する。 本研究の補助事業期間を1年延長させて頂き、平成27年度が最終年度になるので、ビームタイムの時間が余れば、他のテクトニックセッティングの火山ガラス試料やメルト包有物の分析を行い、硫黄化学形態の研究をさらに発展させる足がかりとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
SPring-8のBL27SUのビームタイムを十分に得られなかったために消耗品等に関して未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額はSPring-8にて分析する消耗品、ビーム利用料、旅費、及び論文投稿料に充てる。
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