断層帯におけるすべり運動で生じる素過程を物質科学的に理解するためには、断層帯を構成する岩石の微視的構造を精密に観察することが求められる。本研究計画では、天然の断層岩から採取された鏡肌と、実験室で再現された摩擦岩の表面構造を原子間力顕微鏡を用いたナノレベルの表面観察で解き明かすことを目的としている。天然の岩石試料としては、スイスアルプス地方東部のGlarus衝上断層を構成する断層岩などを採取した。実験室での摩擦岩の生成はJAMSTEC 高知コアセンターの回転摩擦実験装置を利用し、チャートや石灰岩など種々の岩石を出発試料として行った。 本年度の研究により、天然の鏡肌試料、実験で得られた鏡肌試料のいずれにも扁平なナノ状粒子がみられることがわかった。このようなナノ状粒子は岩石種によらず観察され、鏡肌の生成過程に強く関連した組織であると考えられる。さらに鏡肌の生成実験において、岩石間の垂直抗力を変化させて摩擦を施したところ、ナノ粒子の平均径と垂直抗力の間に正の相関があることが明らかになった。これらの実験結果から、天然の鏡肌の表面観察から得られるナノ粒子の平均粒径を求めることによって、断層間に働いた力の見積もりを行うことが将来的に可能となりうることが推察できる。さらに鏡肌に見られるナノ状組織が、金属材料などの摩擦組織とも酷似していることが明らかとなった。 本研究によって、これまで不明な点が多かった鏡肌の生成過程がナノ組織という観点から明らかになった。今後は天然の断層生成過程や、地震発生の素過程への物質科学的フィードバックが期待される。
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