研究課題
平成27年度は、前年度に引き続き走査型透過X線顕微鏡(STXM)を天然試料に応用し、海底下で起きる微生物-金属-岩石(鉱物)反応の解明を試みた。平成26年度までにX線顕微鏡の1細胞観察に足りうる高空間分解能化(50 nm程度)はほぼ確立できたため、今年度は、蛍光染色による遺伝子選択的な微生物検出法の確立を目指した。試料には、IODP Exp.329で採取した南太平洋海底下玄武岩試料を用いた。この試料の採取海域は表層での有機物生産量が地球上で最も小さく、太陽エネルギーに依らない地下岩石圏での独立無機栄養微生物の探査に最も適したフィールドである。蛍光染色法には当初計画通り蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH法)を適用した。しかし、RNA濃度が低いことに起因して、通常のFISH法では選択的検出が困難であったため、次に研究分担者の協力も得ながら、CARD-FISH法と呼ばれる検出感度の極めて高い蛍光法を検討した。その結果、環境試料であっても、問題なくバクテリア、アーキアを染色できることがわかった。年度後半から、確立した2つの手法であるFISH法とSTXM法を天然試料である海底下玄武岩試料へ適用し、1細胞レベルで微生物種ごとに元素分布、化学種分布を可視化することを試みた。FISH法で微生物のうち、バクテリアとアーキアを選択的に染め分け、その後同一試料をSTXM分析に供した。STXM分析による局所鉄化学種観察から、これまで報告されていないバクテリア種であっても玄武岩中の鉄を酸化しエネルギーを得ている可能性が示された。この知見は、海洋地殻中で2価鉄をエネルギー源とする微生物の存在を示しており、地球規模の炭素循環に果たす海底下微生物の役割を再考する重要な知見となりえる。
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Microbes & Environments
巻: 31 ページ: 63-69
http://doi.org/10.1264/jsme2.ME15137