本研究計画では、ナノ材料の微視的モデルとして重要なクラスターのイオンについて、光解離反応で生成したイオンの並進速度・放出角度分布を、イメージング検出器を使って観測する手法の開発を行い、種々のクラスターイオンに関して解離の動力学を明らかにすることを目的としている。本計画で開発する装置は、クラスターイオンと生成物イオンの双方の質量を特定するための複数の反射電極を持つ飛行時間質量分析計と、画像観測装置を効率良く組合わせるという世界でも類の無い特長を有している。これによって、レーザー光解離反応で生成したイオンの放出角度分布と並進速度分布の双方を画像として一気に取得することができる世界で初めて可能となり、光解離反応機構の理解をより深めていくことができると期待されている。 本研究では、サイズ選択されたクラスターイオンの光解離動力学を研究するために、新たな複数反射型飛行時間質量分析計を設計・製作し、現有のクラスター生成・画像観測装置に組み込んで研究を行っていく予定である。前年度に、既にイオンの軌道解析ソフトウエアを駆使して設計された図面をもとに製作を依頼・完了し、それを現有装置に組み込む作業まで完了していた。 最終年度である26年度は、まず既に放出角度分布・並進速度分布の知られているMg-Ar+の系で紫外光解離実験を行うことによって、校正実験を進めた。その結果、画像の拡大率を決める条件を決定することができた。さらにその条件をもとにして、二酸化炭素二量体イオン(CO2)2+の紫外光解離によって生成した二酸化炭素分子イオンCO2+の画像を初めて観測し、その結果と量子化学計算の結果とをもとにして、光励起と解離反応の機構について考察した。 これらの結果は、既に学会で発表するとともに、論文発表の準備を進めている。今後はさらに多様なクラスター系への展開を計画している。
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