研究課題
挑戦的萌芽研究
Mg2FeH6およびその重水素化物であるMg2FeD6についてSPring-8のBL07LSUにおいて発光分光を行った。Fe2pの内殻電子をフェルミ面近くの空状態に共鳴的に励起する方法をとることで、電子ラマン散乱の大きさを知ることができる。電子ラマンシフトの大きさは単純には結晶場によるFe3dのddギャップに相当する。断熱近似およびボルンオッペンハイマー近似が良く成り立つ場合にはMg2FeH6とその重水素化物の間で電子状態の差は実験では観察できないほど無視できる。しかし最も軽い元素である水素の場合は物質中でその核が波動関数として空間的に広がっており、点電荷とはみなせないことが分かっている。そのような状態でもボルン・オッペンハイマー近似がよく成り立つかどうかは分かっていない。実験結果としてはH体とD体ではラマンシフト量に数10 meVの差が観察された。その差の起源を考察するのが本件研究の概要である。重水素化物には一般にケミカル・プレッシャーという格子定数の減少が観察され、その電子状態に対する影響は無視できない。そこでラマンシフトの温度依存性と、熱膨張係数の計測を行い、ラマンシフトの差がケミカル・プレッシャーのみでは説明できないことを見出した。そのほか、断熱近似の範囲内で水素の波動関数性を取り入れるため、第一原理計算によるddギャップと断熱ポテンシャルの計算等を行った。
2: おおむね順調に進展している
Mg2FeH6およびその重水素化物両方について電子ラマンシフトの温度依存性および熱膨張係数を決定でき、ケミカル・プレッシャーからの寄与を評価できた。断熱近似の範囲内でボルン・オッペンハイマー近似を破った時の寄与を評価するための第一原理計算に着手できた。
Mg2FeH6の第一原理計算において、擬ポテンシャルの選定や実際の計算が進んでいるため、得られた断熱ポテンシャルを解析的に解けるモース型のポテンシャルで近似し、HとDの波動関数を計算する。ddギャップのFe-H間距離依存性を計算し、HとDの波動関数を用いてddギャップの期待値を求め、H体とD体の実験での差をどこまで再現できるかを評価する。
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Nano Biomedinine
巻: 5 ページ: 11-17
Applied Surface Science
巻: 265 ページ: 750-757
http://www.tac.tsukuba.ac.jp/~sekiba/