研究課題
Mg2FeH6およびその重水素化物Mg2FeD6について前年度に行った超高分解能軟X線発光分光およびX線吸収分光の結果を解析した。半経験的なクラスターモデルにおいて計算を行い、発光および吸収の両方のスペクトルを矛盾なく説明するパラメータを決定した。今後得られたハミルトニアンおよび固有ベクトルの詳細を議論することにより、Mg2FeH6の電子状態を特徴づける要素を同定する。一方、発光分光スペクトルにおいては弾性散乱ピークの低エネルギー側に1 eV以下のエネルギーを持つ複数の非弾性散乱ピークを観察できた。同様のピークは通常スピンフリップやヤーンテラー効果とのカップリングで説明されるが、本研究では明らかな同位体効果が見られることから多重フォノン励起による説明が妥当と判断した。実際、得られた励起エネルギーは中性子散乱や赤外吸収、ラマン散乱で得られている対称伸縮モードのフォノンとよく一致しているほか、H体とD体で√2倍の差を持つことからも支持される。多重フォノンの観察は電子とフォノンが強く結合した系でのみみられるという理論の先行研究があり、この系はそれにあたると考えられる。水素の軽元素性による核の波動関数の効果についてはまだ断定的な結論は得られていない。発光分光で得られた電子ラマン散乱ではH体とD体で50 meVを超える大きな同位体効果が観察された。第一原理計算によって得られた断熱ポテンシャルのもとで核の波動関数を考慮してddギャップの期待値を計算すると、同位体効果は出てくるものの、6 meV程度と実験をうまく説明できない。励起状態の断熱ポテンシャルにおいてポテンシャルが浅くなることを考慮してもせいぜい20 meV程度の差しか説明できないことが分かった。温度による熱膨張の効果やケミカルプレッシャーのような広義の同位体効果を慎重に取り入れる必要がある。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Journal of The Physical Society of Japan
巻: 84 ページ: 043201-1-3