研究課題/領域番号 |
25620035
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
喜多村 昇 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50134838)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ゼロ磁場 / 金属6核クラスター / トリアリールホウ素ルテニウム(II)錯体 / 発光制御 |
研究概要 |
本年度は以下の2項目について研究を行った。 ① [Mo6I8(C3F7COO)6]2-(X = Cl, Br, I)の励起三重項状態のスピン副準位のゼロ磁場分裂パラメータを、錯体の発光スペクトルと発光寿命の液体ヘリウム温度から室温にわたる温度依存性測定から求めた。その結果、既に知られている[Mo6Cl14]2-のゼロ磁場分裂パラメータとは大きく異なる事が示された。特に、強発光(発光量子収率 = 0.59)・長発光寿命(300 microsecond)である[Mo6I8(C3F7COO)6]2-錯体のゼロ磁場分裂は他の錯体に比べて極めて大きいことが明らかになった。 ② アリールホウ素置換基を有するRu(II)錯体(4RuB2+)の励起三重項状態寿命(発光寿命)の温度依存性を液体ヘリウム温度から室温に亘って検討した。その結果、室温から160 K近辺までは単一の寿命(~14 microsecond)を示すが、より低温側では長寿命成分(~20 microsecond)が現れる二重発光性である事を明らかにした。また160 K以下では短寿命成分、長寿命成分ともに温度依存性は小さく、液体ヘリウム温度まで殆ど不変であった。一般的なRu(II)錯体においては、励起三重項のスピン副準位のゼロ磁場分裂を反映して長寿命化するにも関わらず、4RuB2+は極めて異常な励起物性を示す事を明らかにすることができた。 両研究ともに、平成26年度における遷移金属錯体の発光制御につながる重要なデータを得る事ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予想以上の成果が得られている。すなわち、[Mo6X8(C3F7COO)6]2-(X = Cl, Br, I)および4RuB2+錯体ともに室温から液体ヘリウム温度にわたる励起物性(発光スペクトル・発光寿命)の温度依存性を明らかにすることが出来たことは大きな成果である。両錯体ともに強発光・長発光寿命を示すことから、その性質と励起三重項状態のゼロ磁場分裂パラメータの特徴を関連付ける測定を行うことにより、本研究の目的である遷移金属錯体の発光制御を十分に達成可能であると考えられる。そのため、平成26年度においては、12に示す研究項目を推進する。
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今後の研究の推進方策 |
[Mo6X8(C3F7COO)6]2-(X = Cl, Br, I)および4RuB2+錯体の励起物性の温度依存性測定を終えているが、本研究の目的を達成するためにはデータの再現性や信頼性を向上させる必要がある。特に、ゼロ磁場分裂パラメータの決定には3 ~ 50 K領域における発光寿命の温度依存性の精密測定が必要不可欠である。これまで、錯体の固体試料を用いてきたが、固体試料では発光寿命に対する励起エネルギー移動による影響が予想される。そのため、平成26年度においては、試料錯体をポリメタクリル酸メチルやポリエチレングリコール系等の透明高分子マトリックスに均一分散させた試料を用いて、より信頼性の高い温度依存性測定を行う。これにより両錯体の励起三重項状態のゼロ磁場分裂パラメータ(スピン副準位間のエネルギー差、各副準位の励起寿命、各副準位の相対的な輻射速度定数等)を精密決定し、関連錯体([Mo6Cl14]2-、Ru(1,10-phenanthroline)32+等)のゼロ磁場分裂パラメータと比較・考察を行う。このような研究を通して、遷移金属錯体の発光性とゼロ磁場分裂パラメータを関連付け、錯体の発光性制御のための指針を得ることを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においては、本研究目的へ向けた予備的研究を行い、平成26年度において本格的な実験を行う計画を立案した。そのため、平成26年度に、より十分な経費を割くために次年度使用額が生じた。 本研究を遂行するためには液体ヘリウムを比較的に多量に要するとともに、光学部品類も必要となる。繰越費用は、これらのために使用する計画である。
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