研究課題/領域番号 |
25620039
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩谷 光彦 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60187333)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 金属クラスター / 有機金属錯体 / 貨幣金属 / 多核金属錯体 / パーメタレーション |
研究実績の概要 |
本研究は、炭素やケイ素などの14族元素のパーメタレーションによる多核金属クラスターの系統的構築を目的とした。炭素やケイ素などの14族元素は、軌道の混成状態に応じ結合の長さや方向性が規定され、金属配列のための優れた鋳型となる。以下に、研究実績の概要を示す。 【炭素一原子を鋳型とするパーメタレーション】研究期間の前期に確立したAu(I)六核錯体の合成法をさらに発展させるために、Au(I)のトリフェニルホスフィン配位子やトリシクロヘキシルホスフィン配位子を、カルベン型配位子に置き換えて合成を行い、反応条件を検討している。この過程で、カルベン型配位子によるAu(I)三核オキソ錯体を単離することができ、そのクラスター構造を決定できた。本錯体を前駆体として用いた炭素中心型クラスターの合成も検討中である。 【ベンゼン環を鋳型とするパーメタレーション】ベンゼン環の六つの水素原子をすべてAu(I)に置換することを目標とした。まず、ベンゼンの二置換ホウ素化合物を用い、トリフェニルホスフィンAu(I)錯体のカップリング反応を行ったところ反応が進行しなかった。配位子同士の立体反発が原因であると考え、嵩が小さいジフェニルメチルフォスフィンを用いて同様の反応を行ったところ、ベンゼン環の隣り合った二つの水素原子をAu(I)に置換することに成功した。我々が知る限り、ベンゼンの隣り合う水素原子を金属イオンに置き換えた前例はない。次に、ベンゼンの六ホウ素置換体を合成し、ベンゼン環のパーメタレーションを検討している。Au(I)六核ベンゼン錯体は、金属間結合や電子構造の共役性に大変興味が持たれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルカンおよび芳香族化合物を鋳型とするパーメタレーションを行った。 一炭素中心の金属クラスターについては、Au(I)上のホスフィン配位子のかさ高さを調整することにより、Au(I)六核あるいは五核錯体を作り分けることに成功した。四核錯体については、質量分析測定で検出しているものの、単離には至っていない。また、配位子をホスフィンからカルベン配位子に置き換えて、同様の一炭素中心の金属クラスターの合成を試みたが、反応性が低いことと、金属源が熱に弱いことから、良い反応条件を見つけるに至っていない。Au(I)六核錯体に対して、Ag(I)やCu(I)で一部金属置換できることを質量分析測定やNMR解析により明らかにした。この研究成果は、本研究が異種金属クラスターへ展開できる大きな可能性があることを示している。 芳香族化合物のパーメタレーションについては、ホウ素置換体とAu(I)錯体のカップリングを最も困難と思われたベンゼン環の隣り合う水素原子をAu(I)に置換することに初めて成功した。この結果は、目的とする六核錯体の合成を容易にするものである。この反応条件を踏まえて、ベンゼンの六ホウ素置換体を経由したベンゼン環のパーメタレーションを検討しているが、完成は時間の問題である。 ケイ素についても検討したが、非常に毒性の高い前駆体を経由する必要が出てきたため、迂回ルートで合成できるかどうかを検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
【炭素一原子を鋳型とするパーメタレーションに関する課題】カルベン型配位子を持つAu(I)源を用いた一炭素中心Au(I)クラスターの合成反応条件(一炭素源および溶媒の種類)を検討する。また、Au(I)六核錯体のAg(I)あるいはCu(I)で金属置換が起こることを見出したが、置換数や八面体構造由来の異性体を制御する方法、および得られた混合物を分離精製する手法を確立する必要がある。 【ベンゼン環を鋳型とするパーメタレーションに関する課題】ベンゼンのパーメタレーションを達成するためには、ベンゼンの六置換ホウ素化合物を合成する必要がある。ベンゼン誘導体から直接合成する方法と、二置換アセチレンの三量化による方法により、ベンゼンの六置換ホウ素化合物の合成を試みる予定である。また、上記のAu(I)二核錯体においてAu(I)-Au(I)結合は形成されていなかったが、更にAu(I)源を加えるとくの字型に結合した三核錯体が生成することが明らかになった。この反応を利用すると、ベンゼンのAu(I)六核錯体にさらに六個のAu(I)がπ平面の上下に交互に結合した十二核錯体ができる可能性が出てきた。このようなAu(I)クラスターの光化学および電気化学的性質を実験と理論からアプローチする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年9月、一炭素原子を鋳型とする金属クラスターの合成に必要な金属源を検討する過程で、カルベン型金属源を用いると短工程・高収率で合成できる可能性が確認された。研究遂行上、この合成法を確立することは、一原子を鋳型とする新しいタイプの金属クラスターの構築につながり、研究目的の達成度が高まる。これらの研究を行うには、試薬や溶媒などの消耗品を購入する必要があり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
すべてを物品費として使用する予定である。内訳は下記のとおりである。 (1) カルベン錯体合成用試薬(配位子合成用有機試薬・溶媒、金属源):80万円、(2) 分析用試薬(NMR用溶媒、分光測定用溶媒):30万円、(3) ガラス器具類:10万円
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