研究概要 |
強誘電物質の開発を目指して[H2dabco] (H2dabco2+ = diprotonated 1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane)に着目して研究を行った。その結果、[H2dabco]と[2CB] (2CB=2-Chlorobenzoate)からなる新物質[H2dabco]・[2CB]2の単結晶を得た。この物質は室温でPca21の空間群に属する構造をしていた。非対称ユニットは二つの2CB アニオンと一つの [H2dabco]2+カチオンからなり、二つの2CB アニオンが[H2dabco]2+カチオンで架橋された構造をしていた。分子間水素結合のN-O間の距離は2.555(2)と2.593(2) Aであった。この物質のDSCを測定したところ325 K付近で相転移することがわかった。高温相の構造は非極性のPbcaの空間群に属していた。対称要素は室温で(E, C2, σv, σd)、高温相では (E, 3C2, i, σv, σd, σh)である。これは常誘電から強誘電への相転移が起きたことを示唆している。高温相では[H2dabco]2+の配向は無秩序化しており、二つの2CBアニオンの中間に位置していた。分子間水素結合のN-O間の距離は2.572(4)Aであった。さらに、この物質の誘電率を測定したところ325 K付近で誘電率がピークを示した。これは常誘電から強誘電への転移が起きたことに一致している。さらに、極性構造に変化することを確かめるためにSHG顕微鏡を用いて温度変化によるSHGの強度変化をモニターした。その結果325 K以下でSHGが強まることが分かった。これは、非極性構造から極性構造へと変化したことを支持している。
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