研究課題/領域番号 |
25620048
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中沢 浩 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00172297)
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研究分担者 |
板崎 真澄 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (60382032)
亀尾 肇 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50597218)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脱水素反応 / 鉄錯体触媒 |
研究概要 |
水素分子はクリーンなエネルギー源として注目されている。アルコールから水素分子を取り出す研究は盛んに行われている。本研究では環境にやさしい鉄を用いた錯体触媒の開発を行っている。 アルコールをケトンあるいはアルデヒドに変化し、そこで発生する水素分子を別のケトンあるいはアルデヒドに移動させる水素移動反応は広く研究されている。鉄錯体触媒を用いたこのような反応もいくつか報告されている。しかし、アルケンやアルキンといった不飽和炭化水素への水素移動反応は報告されていない。今年度はSi-H基あるいはGe-H基をテザー部分に有する鉄ヒドリド錯体を新たに合成し、この錯体を触媒とした、フェニルアセチレン誘導体とイソプロピルアルコールとの反応において、水素移動反応生成物であるスチレン誘導体およびフェニルエタン誘導体を得ることに成功した。この反応は、鉄錯体を触媒としたアルキンおよびアルケンへの移動水素反応の初めての例である。興味深いことに、この鉄錯体は反応例の多いケトンやアルデヒドへの水素移動反応は全く示さなかった。触媒反応機構についての検討も行った。本研究成果はOrganometallics, 2014, 33に掲載予定である。 アルコールをアルデヒドやケトンに変換し、そこで発生する水素を別のアルデヒドやケトンなどに移動させる水素移動反応は遷移金属錯体を用いて多くの例で成功している。しかし、これらの反応では水素分子は取り出せない。水素分子自体を取り出す反応の成功例は非常に限られている。我々は鉄錯体を触媒として、2-ピリジニルアルコール誘導体を対応するアルデヒドあるいはケトンに変換する反応系の構築に成功した。この反応は水素犠牲試薬を用いないで反応が効率的に進行するため、水素分子を発生させることができる。鉄錯体触媒を用いた触媒反応としては世界最高の67000触媒回転数を得ている。この研究成果はChem. Commun., 2014, 50に掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では枯渇の心配がなく安定的に供給でき、廉価で、さらに健康面で安全性の高い鉄錯体を触媒として、アルコールから効率的に水素を製造する方法の探索を行っている。今までに報告された鉄錯体触媒を用いた水素移動反応では、Knölkerらが報告している鉄錯体が高い触媒活性を示すが、この錯体はアルコールの水素をアルデヒドやケトンといった極性不飽和結合を有する化合物に効率よく移動させることはできるものの、アルケンやアルキンといった非極性不飽和結合への水素移動反応はできない。我々は鉄に配位しているシクロペンタジエニル基にSi-H基を有するテザーを付けることにより、今までに達成できなかったアルケンおよびアルキンへのアルコールからの水素移動反応を達成することに成功した。 また、困難とされてきたアルコールから水素分子を得る反応を、合成の容易な鉄錯体(CpFe(CO)2Cl)を触媒前駆体とすることにより達成することができた。アルコールとしては2-ピリジルアルコール誘導体を用いる必要があるが、鉄錯体を触媒とすることで、2-ピリジルアルデヒドあるいは2-ピリジルケトンを効率的に得ることができ、その際に水素分子が発生する。我々が得た触媒回転は67000であり、この値は現在世界最高の触媒活性である。 以上の研究成果は2報の学術論文として発表することができた。これは当初の予想を上回る成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
合成の非常に容易な鉄錯体(CpFe(CO)2Cl)を用いることにより、アルコールから水素分子を発生させる触媒系を見出すことに成功した。しかし、この反応で利用できるアルコールは2-ピリジルアルコール誘導体に限られる。そこで今後は、もっと一般的なアルコール(たとえはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)へも適応可能な触媒系を工夫する必要がある。一つの方策は鉄上の置換基を変えた鉄錯体を種々合成し、それらの触媒能の検討を行うというものである。もう一つは、2種の鉄錯体触媒を共存させる方法である。イソプロピルアルコールから2-ピリジルアルデヒド(ケトン)への水素移動反応に活性な鉄錯体触媒を開発し、2-ピリジルアルコールを生成する反応系を構築する。イソプロピルアルコールからアルデヒド(ケトン)への移動水素化反応は比較多く報告されているので、この反応系の構築は可能であると考えられる。こうして得られた2-ピリジルアルコールを、我々が開発した触媒系でアルデヒド(ケトン)に変換させることにより水素分子を発生させる。このタンデム型触媒反応での問題点は、第一触媒サイクルと第二触媒サイクルがお互いに悪影響を及ぼさずに進行するかである。鉄錯体の工夫と反応条件の工夫により、克服したいと思っている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、人件費・謝金の支出を予定していたが、その出費がなくなったため。 物品の購入費としての使用を予定している。
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