研究概要 |
本申請中でのもっとも重要な命題(MFMS)Maximum Function on Minimum Skeleton(MFMS)は、「如何にして単純な骨格に多用な機能を盛り込むか」であり、今年度は、熱・光・電場などの外部刺激に対してその物性値を可逆的に変化させる応答性分子に注目した。C9,C10位にジ(スピロアクリダン)骨格の置換したジヒドロフェナントレン誘導体1aはヘキサフェニルエタンと類似した部分構造を持ち、電気化学的入力に対してC9-C10『エタン結合』の切断による安定なジカチオン2a2+の生成を伴いながら、UV-Visおよび蛍光スペクトルの変化する多重出力エレクトロクロミズム応答を示す。1a及び2a2+はいずれもヘリシティ、軸不斉といった不斉要素を持つが、室温でもその立体配置は容易に反転する。一方、適切な分子設計を行い1a及び2a2+の立体反転を抑制すれば、ジヒドロフェナントレン誘導体キラルカラムを用いた光学分割が可能であり、また、立体配置を保ったまま対応するジカチオンと相互変換できると考えた。実際にC4,C5位にメチル基を導入した1bやジベンゾ縮環体1cを新たに合成して検討を進めたところ、、1b,cや2b,c2+の立体配置は安定であり、ねじれたπ系を有する光学活性な酸化還元対が非常に大きな円二色性(CD)を示すため、1b,c/2b,c2+の電気化学的相互変換では、これまでの応答に加えCDを更なる出力とした多重出力応答挙動を示すことが明らかとなった。これは、既存の骨格にごく小さな構造的摂動を加えることで、新たな機能を付与できたこと示す例であり、MFMSの遂行が成功したことを意味する。
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