研究課題
本研究は,磁性体の新たな状態と考えられている量子スピン液体状態を実験的に実現すること,および量子スピン液体と量子常誘電との共存状態である多重量子液体状態を探索することを目的とした.昨年度までに,三角格子系有機磁性体κ-H_3(Cat-EDT-TTF)_2の極低温・強磁場下磁気トルク測定を行い,反強磁性的交換相互作用の1000分の1という極低温まで長距離磁気秩序が存在せずに量子スピン液体状態が実現していること,およびその液体状態において磁気励起にギャップが存在しないことを明らかにしている.本年度は,κ-H_3(Cat-EDT-TTF)_2の量子スピン液体状態における熱力学的特性を明らかにするため,不純物レベルの極めて小さな磁気エントロピー変化を検出できる磁気熱量効果の測定システムを立ち上げた.測定の結果,量子スピン液体状態において,磁気エントロピーが磁場印加によって急激に減少し,高磁場でほとんど変化がなくなるという特異な振舞いを明らかにした.この成果は,現在発表準備を進めている.また,量子スピン液体状態を示す新物質の探索を目的としてβ-(BDA-TTP)_2I_3の低温磁気トルク測定を行ったところ,約40 Kで磁気転移を発見した.この磁気転移は,単純なスピンモデルを用いた磁気トルクのシミュレーションから,リング交換相互作用という高次の交換相互作用により生じていることを指摘した.リング交換相互作用によるフラストレート磁気状態は,電子スピン系における初めての発見である。以上の成果は,現在論文投稿中である.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)
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