界面電荷移動遷移は、光吸収と同時に異種物質間の界面で電荷分離を起こすことができる。このため、界面電荷移動遷移は、エネルギー損失を伴わない電荷分離の機構として重要であり、太陽電池への応用が期待される。異種物質界面で電荷移動遷移を発現するためには、異種物質界面での強い電子結合(電子混成)が必要であり、強い電子的結合の発現には界面での化学結合の形成が必要不可欠である。しかしながら、異種無機物質間では、格子不整合等による構造欠陥のために、良好な化学結合を形成することが困難である。本最終年度では、この課題を解決するために、着想を変えて、異種の無機半導体を組合せるのではなく、無機物質に比べて柔軟性の高いチオール分子を用いて、まず、表面に吸着した硫黄原子と酸化チタンナノ粒子間の界面電荷移動遷移について研究を行った。種々のベンゼンジチオールを酸化チタンナノ粒子に配位結合させることで、硫黄原子から酸化チタンへの電荷移動遷移が可視域に生じることを見出した。さらに、硫黄原子が界面電荷移動励起状態における再配向エネルギーを減少させる効果を有し、それにより電荷再結合が抑制できることを密度汎関数理論(DFT)計算により明らかにした。太陽電池特性の評価では、界面電荷移動遷移による光電変換を観測し、その内部量子収率が約65%程度であることを見出した。本研究により、酸化チタンと硫化物を組み合わせることで、界面電荷移動遷移を示す新たな複合材料を作製できる可能性が示された。
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