本研究は、1光子で2つの長寿命励起子(三重項励起子)を生み出すシングレットフィッション(SF)という現象を用いて、有機薄膜太陽電池の光電変換効率向上をねらうものである。それを実現するために、本研究で予定している研究項目は、①SFに適したビラジカロイド化合物の設計指針の確立とそれに基づく化合物の合成、②ビラジカロイドの光学測定による励起状態の電子構造の解明、③過渡吸収スペクトル測定によるSFの検証、④C60誘導体をアクセプターとする薄膜太陽電池の評価、である。この研究で得られた成果は、有機薄膜太陽電池の変換効率向上のみならず、SFの基礎科学の発展にも大きく貢献すると思われる。 合成目標に設定していたビラジカロイド化合物の一つであるビスアンテンについては、簡易合成法の確立に成功した。ビスアンテンのビラジカル性をチューニングする目的で、Bay領域へのDiels-Alder反応によりビスアンテンの水平方向へのπ拡張化を行ない、HOMO-LUMO遷移の吸収波長から、縮環様式の違いによるビラジカル性の変化を実験的に明らかにすることができた。また、ビスアンテンを基板上に溶液塗布し、形成した膜の過渡吸収スペクトル測定を行ったところ、一重項状態とは異なる新たな吸収が得られたことから、SF機構により三重項種が生成していることが示唆された。太陽電池の評価では、ビスアンテンとフラーレン(C60)のpn接合を形成し、太陽電池として動作するか確認を行った。スピンコート法および真空蒸着法により、ビスアンテン薄膜とC60薄膜を積層して太陽電池とした。太陽電池特性は、短絡電流1 mA/cm2、開放電圧0.34 V、FF0.48、変換効率0.16 %と、単純積層型太陽電池としては良好な値を示した。
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