研究概要 |
1. Au/BDT/NiおよびNi/BDT/Ni (BDT: ベンゼンジチオール)のゼーベック係数 基板、探針がAuの場合、ゼーベック係数S = 7.4uV/Kと既報値(Reddy et al, Science, 315, 1568 ,2007)とよく一致した。基板、探針をNiの場合、S = -12 uV/Kとなった。AuとNiでは、仕事関数はどちらも5eV近辺で大きく変わらないため、ゼーベック係数の符号反転は伝導に寄与する軌道が電極との化学反応により大きく変化したことを示している。共同研究者(大阪大学 大戸助教)による第一原理計算の結果、実験で観測された結果が透過係数のスピン分裂によって引き起こされたことが裏付けられた。この結果は、強磁性電極を利用することで同じ分子でもゼーベック係数の符号が反転されることを示しており、電極-分子結合を利用した熱電素子の開発にとって重要な知見と言える。 2. オリゴチオフェン分子のゼーベック係数 チオフェンの5量体, 8量体,17量体を金電極に架橋した単分子接合の熱起電力を測定し、それぞれ、S=9.3, 28, 24 uV/Kを得た。この結果から、すべての分子で電荷担体がホールであることが明らかとなった。分子長が長くなるとゼーベック係数の値が大きくなったことから、長い分子では伝導に寄与するチャンネルがフェルミレベルに近づき、また、よりシャープな分布を示していることが示唆された。 3. C82およびGd@C82のゼーベック係数 金属内包フラーレンでは、S=-30uV/K, 非内包のものがS=-19uK/Vと、金属内包フラーレンが大きなゼーベック係数を示した。この原因は現在解析中であるが、内部の金属とフラーレン骨格の間の電荷移動により伝導に寄与するフラーレン骨格のπ軌道がよりフェルミレベル近傍に近づいたためと推測している。
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