研究課題
平成27年度は、電気伝導度と熱起電力の同時測定をおこなう装置の開発、および、ホッピング伝導領域における単分子の熱起電力測定を行った。これまでの測定方法では、(1) 熱起電力を測定している際の電気伝導度の評価が難しいこと、(2) 直立した配向の膜を形成しない分子の場合には測定が困難であることという問題がある。(1)を解決するための手法として、高速かつ精密に電流電圧(IV)特性を測定する方法を開発した。低バイアス領域ではほぼ電流は電圧にほぼ直線的に変化するため、IV特性の傾きからコンダクタンスが、切片から熱起電力を求めることができる。(2)を解決する手段として、通常、単分子の電気伝導度測定で用いられるSTMブレークジャンクション (BJ)測定を行いながら、高速にIV特性を測定した。STM-BJでは、STMの探針と基板を衝突させたのち、引き離す際に形成される過渡的な構造に対して電流を記録する。この方法では、分子が基板に寝転んだ状態であっても、測定操作中に引っ掛けて単分子接合を形成できることに加え、さまざまな分子配向に対する測定も行うことができる。開発した装置による測定結果では、予定通り、高速IV測定結果の傾きからSTM-BJ測定で観測される典型的なコンダクタンストレースと単分子接合の形成を示すプラトーを観測することができた。同時に熱起電力を評価することもでき、微細な構造変化に伴う熱起電力の変化を追跡することが可能となった。ホッピング伝導領域における熱起電力測定では、これまでに測定を継続してきたオリゴチオフェン分子に関する測定を進め、トンネル伝導領域と大きくはかわらないホール伝導を示す正のゼーベック係数を観測した。この結果は、トンネル伝導状態もホッピング伝導状態も単分子レベルでは結果として類似した電子状態を利用した電気伝導となっているためと説明できる。
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Nanoscale
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