研究課題/領域番号 |
25620061
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
荒谷 直樹 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (60372562)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / クロスカップリング / ナノ材料 |
研究概要 |
本研究課題では、シクラセン骨格の設計指針と合成方法を確立し、またその材料の特長を活かした素子の開発および高効率の近赤外発光材料の合成を目指す。 アームチェア型カーボンナノチューブ(CNT)の部分構造であるシクロパラフェニレン(CPP)は最近盛んに研究されているが、ジグザグ型CNTの部分構造はこれまでに磯部らによる一例しか合成例がない。さらに、共役の繋がったシクラセンはどのような系においてもいまだ合成の達成されていない夢の化合物である。母核のシクラセンは、閉殻表記では構造中にベンゼン環(sextet)を一つも描けず、「末端」がないため完全な無限構造をとっており、π電子共役は分子全体に拡がっている。 本年度は、ペリレンのベイエリアの修飾、鈴木-宮浦カップリングを経て、効率よくフェニレン架橋2量体を合成する条件を確立し、またそれを条件を変えて酸化することで、モノ縮環体とビス縮環体の両方を得た。ここで、鍵となるのは化合物の溶解性・反応性(化学的安定性)である。特に溶解性は化合物の同定にも影響するので非常に重要である。安定性に関しては今のところ問題は無い。溶解性は徐々に低下しているので、今後の工夫を要する。フェニレン架橋2量体と完全縮環2量体に関しては、単結晶のエックス線構造解析に成功した。また、環状縮環体合成に向けて、ビス臭素化体とビスホウ素化ベンゼンとの1:1カップリング反応に挑戦し、8量体までの生成をMALDI-TOF質量分析装置で確認した。今後、曲面状の化合物を合成するためには、どの段階で環状化して芳香族化するかが極めて重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本となる分子設計としてπ共役系化合物を単結合という「線」でつなぐのではなく、2箇所以上の結合で繋いで「面」を作るためにペリレンを選択し、更に大気化でも安定に取り扱えるようにビスイミドを導入した。まずはペリレンのフェニレン架橋2量化が収率良く進む反応条件を確立し、さらに強い酸化的条件によって完全縮環体になることを突き止めた。どちらの化合物もエックス線結晶構造解析によって分子構造を明確にしている。このように部分ユニットの反応は完全に制御できた。次にビス臭素化体とビスホウ素化体の鈴木ー宮浦カップリングによって、8量体の生成まで確認し、基本ユニットのオリゴマー化に対する反応性に問題が無いことを確かめた。詳細な質量分析によって、末端部分がフェニル基で反応ストップしていることを明らかにし、現在はホウ素部分が還元されて終わる反応を、いかにして環状化へ導くか、最後に残る関門である環状化の条件検討に進んでいる。これらの結果・進捗状況は、おおむね研究計画通りであり、申請者の設定したゴールに向かって一歩一歩着実に近づいている状況にある。従って、区分として(2)おおむね順調に進んでいるを選択した。
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今後の研究の推進方策 |
ジグザグ型カーボンナノチューブの部分ユニットは不安定で単離できないと思われがちであるが、適切な置換基の導入などで克服できると考える。すでに十分に電子求引性の置換基を導入して化合物の酸化に対する安定性を確保しており、ベルト状化合物を経由して最後は酸化によって共役系を完成させる目標に変わりは無い。 リング状分子から、より「壁」のある分子の合成を達成するところが研究の肝である。最後の酸化によって共役系を完成させる反応は、新反応の開発も含めて精査する。「壁」ができることでより内部空間が有効に利用できるようになり、フラーレン類との錯形成能も探索する。新しい有機色素化合物の創製によりその特異な物性が明らかになれば、その高次化(集積化)によって化合物の持つ個々の能力を最大限に発揮できるのみならず、複合化による電子状態の変化や新たな機能の創出も期待できる。 ペリレンビスイミドは加水分解によりカルボン酸となるため、多点水素結合を利用した集積化を検討し、真のチューブ構造の創成に取り組む。 ジグザグ型CNTは単体としての性質のみならず、単層CNTとして内包分子と相互作用することや、ジグザグ型CNTの完全合成のテンプレートとしても期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
新規化合物の同定に予想よりも時間がかかり、その間に使用予定であった試薬等を次年度に利用することになった。 試薬等の消耗品に使用する。
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