研究課題/領域番号 |
25620063
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
塩見 大輔 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40260799)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分子磁性体 / キラリティ / 電子スピン共鳴 / ESR / SQUID / 円偏光 / 円偏波 / 磁気光学効果 |
研究概要 |
キラリティをもつ磁性体には,特異な磁気キラル効果が期待される.従来のキラル磁性研究は,もっぱら光学遷移に現れる効果-磁気光学効果-を期待あるいは指向して調べられてきたが,本研究ではスピンを直接捉えつつキラリティを磁気分光学的に評価できる,実用レベルでのキラルな電子スピン共鳴(ESR)法を初めて提案する.マイクロ波を円偏波化しその共鳴信号を検出するには,これまで技術的な困難があったが,マイクロ波照射下で定常的な縦磁化を検出するという方法を立案した.円偏波を縦磁化検出系に送り込める導波管システムを設計し,試作した. 通常の磁化測定では,試料に静磁場B0をかけて,コイルの中をくぐらせた際に生じる誘導起電力をSQUID(超伝導量子干渉素子)で検出する.現有のSQUID磁束計では,通常,試料を入れたポリプロピレン製ストローをロッド(ステンレスと銅シリコン合金)の先端に固定し,装置内に吊り下げ,コイルをくぐるよう上下させる.マイクロ波を導入する場合,ロッドを円筒導波管におき換えることにした.円筒の内部に試料を固定し,上部からマイクロ波を導入することにし,導波管全体を上下させることで,静磁場B0と振動磁場B1が印加された定常状態での磁化を測定した.試料は導波管の外に置く方法もあり得るが,円偏波の純度の維持を第一に考え,試料は管内に完浴させることにした.初年度は下記の①から③を計画し,この計画のとおり装置を立ち上げた. ①電磁場シミュレーションにより,円筒導波管の形状を設計した. ②Vバンド円偏波導波管を製作した. ③アキラルな基準物質での円偏波ESRを測定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
円偏波導波管の試作機を完成させ,SQUID磁束計への組み込みを完了した.ガン発振器とポーラライザーからなる円偏波導入系の導波管への接続も完了し,液体ヘリウム温度での安定動作も確認できた.アキラルな基準物質(固体ラジカル試料)を用いて,直線偏波と円偏波をそれぞれ用いて,ESRの共鳴信号を観測することができた.しかし,円偏波による測定では,試料位置でだ円成分の混入がかなり大きいことが明らかになった.だ円成分の混入,すなわち円偏波への直線偏波成分の混入は,偏波ESRをキラル磁性体に適用していく上で分光法としてのクオリティに重大な影響を及ぼすことになり,円偏波導波管の試作機の改良を要することがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
試料位置でマイクロ波偏波のだ円成分がかなり混入している原因としては,SQUID磁束計内部での反射波に由来する逆旋円偏波による部分がかなり大きいと考えられる.そこで,今後は,この反射マイクロ波の寄与を低減させるための改良を施すことにする.ひとつの方法として,方向性カップラー等のマイクロ波素子を用いることが考えられるが,液体ヘリウムレベルの極低温環境下で安定に動作し,かつコンパクトなものにする必要がある.また,より簡便な改良として,導波管の先端に電波吸収材または無反射終端を置いて,反射波を消去することも試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
液体ヘリウムの使用量が,当初の計画よりも若干少なくなり,液体ヘリウムの購入に充てる金額が減少した.また,マイクロ波回路の素子(アッテネーターなど)について,当初予定していたものよりも安価なものが見つかったため,その購入に充てる金額が減少した. SQUID磁束計の内部でのマイクロ波の反射波を制御する必要があることがわかった.次年度は,反射波の強度を制御するための素子や電波吸収材等を新たに導入する予定である.上記の次年度使用額は,これらの素子・吸収材の購入に充てる.また,マイクロ波の反射波を最小化するための条件を探索するために,低温環境下での測定時間が当初の計画よりも長くなると予想される.そのための液体ヘリウムの追加購入にも充てる.
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