研究課題
スピン集合系のキラリティを直接評価できる新しい測定手法として,円偏光(円偏波)を用いた磁気分光法が重要と考えられる.円偏波マイクロ波を用いたESRは過去にいくつかの試みがなされている.それらに対して本研究では,汎用のSQUID磁束計に円偏波マイクロ波を導入して,定常的な縦磁化を検出することで円偏波ESRを測定する装置系を設計・試作した.まず,導波管とクライオスタットの最適形状を求めるために,電磁場シミュレーションを行なった.マイクロ波の波長と同程度の曲率半径をもつ曲面構造と,金属部品の全長が波長の数十倍程度という実際の装置系でのスケールを考慮して計算した.この計算に基づいて製作した円筒導波管を,汎用のSQUID磁束計に組み込み,V帯のマイクロ波照射時でも試料部温度がマイクロ波非照射時と同様の2 Kに保たれることを確認した.次に,アキラルな有機ラジカルを標準試料として,円偏波マイクロ波を照射しつつ磁化曲線を測定した結果,共鳴条件を満足する磁場領域で磁化の減少すなわちESR信号を観測した.静磁場の印加方向の反転,すなわちラーモア歳差運動の回転方向の反転の効果のみが現れる条件下で,ポーラライザーの有無(それぞれ左右円偏波,直線偏波の照射に対応する)による磁化曲線の変化を調べた結果,ESR信号の強度は,円偏波の左右旋性に応じた傾向は示したものの,だ円率Ψ(左右円偏波でtanΨ=±1,直線偏波でtanΨ=0)を反映したものから若干ずれていることがわかった.これは,円偏波に直線偏波成分が混入していることを示しており,今後の課題として,クライオスタット内での反射波に由来する逆旋偏波成分の除去が必要である.
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