研究課題/領域番号 |
25620074
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 雄二郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00198863)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機合成 / 有機触媒 / 不斉合成 / 天然物合成 / プロスタグランジン |
研究実績の概要 |
プロスタグランジンは強力な生物活性を有数する天然有機化合物であり、その誘導体は医薬品として臨床で使用されてきた。多くの研究者によってその合成研究が行われている。我々は昨年度の研究で、既にプロスタグランジンE1メチルエステルのわずか3ポットでの合成に成功している。この合成の途中で我々は予期していなかったニトロアルケンからのα,β―不飽和ケトンへの変換反応を偶然見いだした。この反応は前例がなく、有機合成化学的には重要な反応である。そこで反応機構に関する検討を行った。その結果、ニトロアルケンからはα,β―不飽和ケトンが生成するが、ニトロアルカンからはケトンが生成する事を見いだした。種々反応条件の検討を行った結果、反応には酸素が必須である事を明らかにした。ラジカルクロック実験を行い、反応系のNO2-とNO3-の濃度測定を行った。これらの実験を通して、以下の反応機構を明らかにした。ニトロアルカンに塩基を作用させるとニトロナートが生成し、酸素へ1電子移動が起こる。ラジカルカップリング反応が進行し、ジオキシランを生成する。ここで生成したジオキシランともう一分子のニトロナートが反応して、ケトンが生じる。本反応は広い一般性を有し、多くのニトロアルケン、ニトロアルカンから、α,β―不飽和ケトン、およびケトンが非常に温和な条件下生成する。 さらに、プロスタグランジンE1メチルエステルで得られた知見を基に、慢性動脈閉塞症の治療薬であるベラプロストの合成に取り組んでいる。今回の研究で開発したスクシンアルデヒドとニトロアルケンの不斉形式的3+2付加環化反応を利用する事により、シクロペンタン骨格の合成に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していたプロスタグランジンE1メチルエステルの合成を3ポットで達成する事ができた。さらに、その反応の過程で見いだした前例のない酸素を用いたNef反応の反応機構を明らかにするだけでなく、その反応の最適化を行い、一般性に関しても検討を行うことができた。予想していなかった多くの成果が得られ、研究が当初の計画よりも進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでプロスタグランジンE1メチルエステルを合成できたが、プロスタグランジン誘導体には実際の医薬品として使用されている化合物が他にも色々存在する。そのような化合物も今回開発した手法を利用すれば簡便に合成する事ができると考え、それらの化合物の短工程合成法に挑戦する。慢性動脈閉塞症の治療薬であるベラプロストは東レと科研製薬で共同開発されたプロスタグランジン誘導体であり、ラセミ体として臨床で用いられている。光学活性体の合成が求められている。プロスタグランジンE1メチルエステル合成で開発したスクシンアルデヒドとニトロアルケンの不斉形式的3+2付加環化反応を利用することにより、シクロペンタン環の合成を行い、昨年開発した酸素を用いるNef反応を適用する事により、シクロペンテノンに導き、その合成を達成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年、プロスタグランジンE1メチルエステル合成の過程で見いだした酸素を用いるNef反応という、予想以上の成果が得られた。その一方で、プロスタグランジン誘導体の一つであるベラプロストの合成に取りかかったところであり、その合成に関しては予定よりも遅れている。次年度、ベラプロストの合成を達成するために、研究費を使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの検討で、スクシンアルデヒドとニトロアルケンの不斉形式的3+2付加環化反応を利用する事により、シクロペンタン骨格の不斉合成に成功している。今後は我々が今回開発した酸素を用いるNef反応を適用する事により、ニトロシクロペンテンをシクロペンテノンに導く。さらにα鎖、ω鎖の官能基変換を行い、ベラプロストを合成する。なお、側鎖にも不斉炭素が存在するが、この不斉炭素を、我々の開発したdiphenylprolinol silyl etherを用いるニトロアルカンと不応和アルデヒドとの不斉触媒マイケル反応を鍵反応とする事により構築する予定である。
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