研究実績の概要 |
ホウ素の高い窒素親和性に基づいて含窒素芳香環の脱芳香化を温和な条件下実現する、革新的分子変換法の開発を目的として研究に取り組んでいる。平成26年度は、平成25年度の検討により明らかとした、化合物N,N’-ジボリル-ビピリジニリデン(A)の生成と反応に着目し、これに基づく発展的研究である触媒反応系の構築を中心に検討を行った。その結果、触媒量の4,4’-ビピリジン存在下において、多置換ピラジンに対するビス(ピナコラート)ジボロンの付加(ジホウ素化)が進行し、脱芳香化生成物を与えることを見出した。触媒構造について精査したところ、4,4’-ビピリジンの一方のピリジン環の電子的要因が重要であり、電子求引性の誘起効果を示す置換基が置換すると触媒効率が向上することが明らかとなった。また反応条件についても検討を行い、テトラヒドロフラン中60℃で反応を行うと効率よく反応が進行することがわかった。最適化した触媒と反応条件を適用することで、様々な多置換ピラジンや多置換キノキサリンのジホウ素化を達成し、対応する脱芳香化生成物を高い収率で得ることに成功した。ビピリジン触媒の非存在下では、110℃で加熱してもこれらの基質のジホウ素化は全く進行しないことから、触媒の効果は明白である。触媒サイクルは、(1)4,4’-ビピリジンによるホウ素-ホウ素σ結合の切断、および(2)生成した化合物Aからピラジンへのボリル基の移動と4,4’-ビピリジンの再生、の二つの素過程で成立しており、有機分子触媒では過去に例のない反応形式であることから、これに基づく特徴ある触媒的分子変換反応の設計・開発に資すると考えられる。
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