研究実績の概要 |
ホウ素の高い窒素親和性に基づいて含窒素芳香環の脱芳香化を温和な条件下実現する手法、ならびにこれを利用する革新的分子変換法の開発を目的として研究に取り組んだ。平成27年度は、平成26年度の検討により明らかとした、4,4’-ビピリジンによるホウ素―ホウ素σ結合の触媒的活性化に基づき、ホウ素―炭素結合形成反応の開発に取り組んだ。まず、N,N’-ジボリル-4,4’-ビピリジニリデンを用い、様々な不飽和化合物との化学量論反応を検討したところ、アセチレンジカルボン酸ジエステルへのボリルトランスファーがトルエン中60℃で効率よく進行し、1,2-ジボリルフマル酸ジエステルと4,4’-ビピリジンが良好な収率で生成することを見出した。この結果を基に、触媒量の4,4’-ビピリジンを用いるアルキンへのビス(ピナコラート)ジボロンの付加(ジホウ素化)を検討し、有効な触媒構造と反応条件について明らかとした。既報の白金触媒によるアルキンのジホウ素化とは異なり、トランス付加生成物が立体選択的に生成した。また、両端にエステルが置換した炭素―炭素三重結合のみに反応が進行するという特徴を利用し、分子内に不飽和官能基を有するアセチレンジカルボン酸誘導体の化学選択的ジホウ素化を達成した。 4,4’-ビピリジンによるホウ素―ホウ素σ結合の活性化について、理論計算による反応機構解析を実施した(北海道大学の前田、武次らとの共同研究)。その結果、4,4’-ビピリジン2分子とビス(ピナコラート)ジボロン1分子からホウ素―ホウ素σ結合の切断を経てラジカル種2分子が生成する経路が示唆されたことから、ESRを用いた実験を実施し、ラジカル種の生成を確認することに成功した(京都大学の村田との共同研究)。本知見は有機分子触媒によるσ結合活性化の新展開であり、これに基づく特徴ある触媒的分子変換反応の設計と開発に資すると考えられる。
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