研究概要 |
われわれは、複数金属からなる触媒として複核イリジウム錯体に注目して研究を進めており、光学活性な2座ホスフィン配位子を有するイリジウム2核錯体触媒によるイソキノリン類の不斉水素化反応において基質を塩酸塩へと誘導することで、収率およびエナンチオ選択性を向上できることを見出している。そこで、この基質の塩形成の効果を利用することでピリジン類の不斉水素化反応を達成できると考え検討を行った。2-methyl-6-phenylpyridine をモデル基質として検討したところ、塩を形成しない場合全く反応が進行しなかったのに対して、塩へと誘導した基質は80%の転化率、43% eeで対応するピペリジン誘導体を与えた。このとき得られた生成物はsyn体のみであり、anti体はまったく観測できなかった。ピリジン塩の対アニオンは重要であり、ヨウ化水素酸塩を用いた場合に収率、エナンチオ選択性共に向上した。最適化した条件下で基質一般性の検討を行ったところ、種々の2,6-二置換ピリジン塩が適用可能であり、高ジアステレオ選択的に反応が進行した。また、本触媒系は2,6-二置換ピリジン塩のみでなく2,3-二置換ピリジン塩も適用可能であった。さらに、本系を三置換ピリジン類へと適用することを企図し、7,8-dihydro-2-methylquinoline-5(6H)-one の水素化を行った。この基質を塩酸塩へと誘導し不斉水素化を行うことにより、3つの不斉点を有するピペリジン誘導体 が得られた 。7,8-dihydro-2-methylquinoline-5(6H)-oneの不斉水素化反応は既に報告されているものの、一つの二重結合が残存したエナミンが得られるのみであったことから、基質の塩形成による効果でエナミンからピペリジン誘導体への水素化が進行したものと考えられる。
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