研究実績の概要 |
光学活性2座ホスフィン配位子を有するハロゲン架橋イリジウム二核錯体を触媒前駆体として用いることにより、3位にアルキル基およびアリール基を導入したイソキノリンの塩酸塩の不斉水素化により、光学活性な環状アミンを一挙に合成することに成功した。最適化した条件下で1位および3位置換イソキノリン塩酸塩の不斉水素化反応は速やかに進行し、対応するテトラヒドロイソキノリンを高収率かつ高エナンチオ選択的に与えた。本反応の官能基許容性は高く、ブロモ基を有する基質でも触媒反応中にブロモ基を損なうことなく反応が進行した。また、本触媒系は二置換イソキノリン類も適用可能であり、1,3-二置換イソキノリン類では高ジアステレオ選択的に反応が進行しsyn体が選択的に得られた。また、2位および6位に置換基を持つピリジンの塩酸塩を基質として用いることにより高い不斉収率で対応する光学活性な置換ピペリジン誘導体が得られることを見いだした。 塩酸塩形成の効果が、基質の反応性だけでなくエナンチオ選択性に大きく影響することを解明するため、イリジウム二核錯体とテトラヒドロイソキノリンおよびその塩酸塩との反応を検討した。テトラヒドロイソキノリンは、イリジウムに配位し、生成物アミンが配位した単核錯体が得られた。一方、テトラヒドロイソキノリン塩酸塩との反応においては 、塩酸塩の塩化物イオンがイリジウムに配位したアニオン性錯体が生成した。これらの実験結果から、イリジウム二核錯体は、アニオン性錯体と平衡状態にあり、溶媒の配位により中性の単核錯体を形成し、水素分子との反応によりジヒドリド錯体となる。基質塩酸塩の配位によりアニオン性ジヒドリド錯体となり、ヒドリド攻撃が進行することで還元が進行する。ヒドリド攻撃の際、水素結合を介した外圏六員環遷移状態を経る反応機構が最も妥当であるという研究結果を得た。
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