昨年度の研究成果をふまえ、カルボン酸からの小分子の効率発生を検討した。酢酸の工業的製造法であるCativaプロセスに利用可能なH2IrCl6/Ru(CO)4I2触媒系を用いてステアリン酸の脱カルボニルを窒素雰囲気下行なうと反応が効率良く進行し、一炭素減炭したアルケンが脱水とともに良好な収率で得られたが、興味深いことに、本反応を密閉系で行なうと、アルケンではなく、一炭素減炭したアルカンが高収率で得られることが新規に見出された。本系ではまずステアリン酸の脱カルボニル化によりアルケンの生成とともに、一酸化炭素と水が生成するが、同一触媒が水性ガスシフト反応を触媒し、水素と二酸化炭素を与え、アルケンの水素化が進行した可能性が示された。すなわち、H2IrCl6/Ru(CO)4I2触媒は脱カルボニル化、水性ガスシフト反応、水素化反応の触媒として機能することとなる。本結果は、脂肪族カルボン酸が一酸化炭素のみならず、水素の発生源としても機能させることができることを示している。そこで、アルケンが発生させた水素による水素化の対象となるが、アルケンと水素の段階で止めるための条件検討を行った。また、この小分子発生手法が、短鎖脂肪族カルボン酸に適用可能であることを確認した。 また、本年度には発生させた小分子ガスを効率的に分離させるため、気液の分離膜に対してより詳細な検討を行なった。これまでPTFE製樹脂であるDuPont 社から供給されているAF-2400®チューブをガス透過膜として用いてきたが、より安価にして形状的に柔軟なガス透過性膜の探索試験を行った。国内のメーカーから供給されている種々のPTFE樹脂膜を用い、ギ酸と硫酸から発生させた一酸化炭素の透過を検討したところ、ギ酸、硫酸を通さず一酸化炭素のみを透過させることの出来る素材を見いだすことができ、これを組み込んだ小分子発生の実験装置の試作を行った。
|