研究課題/領域番号 |
25620098
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
赤木 和夫 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20150964)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 高分子球晶 / イオン性共役ポリマー / 階層的自己組織化 / 円偏光発光 / ヘリカル会合体 / π-π相互作用 / イオン相互作用 / ポリパラフェニレン誘導体 |
研究概要 |
スフェルライト(球晶)は、中心から放射状に伸びた結晶性領域とその間を満たす非晶質領域とが共存する、球状の半結晶性材料である。高分子球晶は、結晶性領域が高度に秩序だったラメラ構造で構成されているため、アモルファス(非晶質)な高分子材料に比べて密度、硬度、力学強度の面で優れている。このように、高分子球晶は特徴的な力学的・光学的性質を包含しており、有望な機能性材料といえる。しかしながら、これまでの高分子球晶はポリエチレンやポリプロピレンなどの非共役ポリマーに限られており、π共役ポリマーからなる球晶についてはほとんど例がない。 本研究は、カチオン性π共役ポリマー(側鎖末端にテトラアルキルアンモニウムカチオンを導入したポリパラフェニレン誘導体:PPP)と、アニオン性キラル化合物(1,1'-ビナフチルの2, 2' 位にプロポキシル鎖を介してスルホン酸アニオンを導入した軸不斉ビナフチル誘導体:BNP)を合成した。次に、PPPとBNPを別々に水-メタノールの混合溶媒に溶かし、2つの溶液を室温下で様々なモル比で混合し、静電的イオン相互作用とπ-π相互作用に基づく高分子会合体を得た。この会合体において、ポリマーへのキラル誘起および高分子鎖間でのらせん構造を形成していることを明らかにした。次に、らせん状会合体の階層的自己組織化を利用して調製したナノ粒子は、ポリマー球晶に特有な消光リングを伴うマルタ十字の光学模様を示すとともに、青色の円偏光発光を呈することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、カチオン性π共役ポリマーとアニオン性キラル化合物からヘリカル構造の会合体を調製し、この会合体の階層的自己組織化を利用して高分子スフェルライト(球晶)を創成した。ポリマー球晶は、汎用性ポリマーのみならずπ電子共役系ポリマーにおいても、その例はほとんどなく、極めて希なものであった。本ポリマー球晶は青色の円偏光発光を呈するとともに (Advanced Materials)、次代の偏光光学材料に資するものと期待される。 本研究を基礎とする新たな進展があった。すなわち、共役系ポリマーのナノ粒子作成に関する知見を基に、光応答性ジチエニルエテン部位を側鎖にもつ芳香族共役系コポリマー三種を合成し、これらを用いて、光の三原色である赤緑青(RGB)および白色の発光を示すポリマーナノ粒子を調製した。ポリマーナノ粒子に紫外および可視光を交互に照射することで、消光と発光がスイッチングする、光応答性ナノ粒子発光体を創成することができた。さらに、白色とRGBの各色との光スイッチングを制御することができた。 これらの研究結果は、科学雑誌Nature Communication (2014)にアクセプトされ、掲載予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1. ポリマー球晶の蛍光強度の向上や粒径サイズの制御を実現させるべく、ポリマーの繰り返し単位をビフェニルからターフェニルに変えたコポリマーを合成し、その側鎖にテトラアルキルアンモニウムカチオンを導入する。これにより、イオン性ポリマーの蛍光強度を飛躍的に増大させる。一方、ビナフチルの2,2’位にスルホン酸アニオンを、6,6’位に剛直な置換基を導入した、四置換体のビナフチル誘導体を合成する。これにより、キラルドーパントとしてのらせん誘起力を増大させる。また、粒径サイズの制御には、側鎖の長さや置換基のメチレン鎖を変化させるなどの分子的修飾を試みるとともに、ナノ粒子の成長時間を増加させるなどを試みる。 2. 新たな展開となった、光応答性ポリマーナノ粒子発光体について、繰り返し単位の芳香環やヘテロ環の種類や組み合わせを変えて、RGB色以外の中間色を示す蛍光発光体を開発する。さらに、溶液、ナノ粒子およびフィルムの状態においても、消光と発光がスイッチングする発光体を系統的に作成する。 また、スイッチングの繰り返し耐久性を向上させるべく、重合条件の最適化を通じて、ポリマーの高分子量化を図る。
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