本研究課題では天然のヘム酵素をモデルとして、金属ポルフィリンと配位子、さらには金属ポルフィリンと配位性アミノ酸含有タンパク質をそれぞれ高分子材料に導入することで、新たな機能性高分子集積体を創製することを目的とした。金属ポルフィリンと配位子を導入した高分子ヒドロゲルの集積では、鉄ポルフィリン(ヘム)とヒスチジンをそれぞれ導入したヒドロゲルが水中で振とうするだけで接着し、その接着をpHによって制御できた。本年度はこの現象を拡張し、ヒスチジンに代わり、アポタンパク質(ここでは西洋わさびのペルオキシターゼからヘムを取り除いた生体高分子)をアクリル酸、アクリルアミド、そしてビスメチレンアクリルアミドからなる高分子ヒドロゲルに導入したゲルを用いた。その結果、これらのゲルに導入したヘムとアポタンパク質の固定量、およびゲル界面の面積に応じて接着強度が変化することを見出した。一方、ヘム導入ゲルとポリアクリルアミドゲル(アポタンパク質を導入していないゲル)、あるいはポリアクリルアミドゲルとアポタンパク質導入ゲルを接触させても、接着することはなかった。これらのことからヘムがアポタンパク質に取り込まれることによりゲルが接着することが分かった。さらに、これらのゲルが接着することにより、天然酵素ホーソラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)と同様の酸化反応が進行することを見出した。天然酵素HRPの基質となるABTSをこれらのゲルに内包させて、2種のゲルを接着されると、基質の酸化反応生成物(青色の化合物)がゲルの界面より生成していることが観察できた。この反応は2種ゲルを剥離することで停止できた。この反応の促進・停止をゲルの接着・剥離により制御できることがわかった。
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