本研究は、電源フリーの液滴マイクロ分析システムを目指した、自己駆動する油滴の融合と分裂を利用した自律型液滴マイクロ分析システムの創成を目的としている。本システムの作動原理を検証できれば、生体/環境モニタリングを指向した電源不要のポータブルマイクロ分析システムの要素技術につながることが期待される。 4-ヘプチルオキシベンズアルデヒドの油滴を界面活性剤で満たしたマイクロ流路に導入したところ、油滴の自己駆動(5um/s以上の速度で運動する状態)が1時間以上観測されたが、その速度と界面活性剤濃度には有意な相関がみられなかった。これは油滴の懸濁液の作製過程で機械的振とうの加え方に問題があると考え、新たにマイクロ流路デバイスを利用した油滴の作製プロセスを開発した。この油滴は、界面活性剤濃度に対し、速度が正の相関を示すことがわかった。これにより、油滴の駆動メカニズムが、界面活性剤濃度が油滴界面に不均一に吸着することによるマランゴニ対流とそれによる移流と考察される。 さらに、マイクロ流路デバイス中での油滴の駆動方向を制御するために、反応性界面活性剤として、カーボネート結合を有する二親水基二鎖型両親媒性分子を新たに設計・合成した。これの化学反応が油滴の駆動状態を長寿命化させ、反応の触媒である水酸化ナトリウムを用いて駆動方向を制御できることを示した。この観測結果は、自己駆動する油滴に化学走性の機能を付与できたことを意味しており、マイクロ分析システムの構築にあたって重要な運動制御機構を構築できた点で重要である。
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