活性酸素種は,約90パーセントにも及ぶ疾患の病態生理と多様な生命機能の制御に深く関わっている生体分子である.しかし,その圧倒的な重要性にもかかわらず,細胞や生体深部で生成する活性酸素種の動態はよく分かっていない.このため活性酸素種の細胞内動態を可視化計測できる新しい分子センサーの開発が強く求められていた.本研究では,分泌型ルシフェラーゼ(海洋生物由来)に内在する特異な物性に関する発見に基づいて,従来にない全く新しいタイプの活性酸素種の生物発光センサーを開発した.まず,分泌型ルシフェラーゼの選択性を調べ,当該生物発光センサーが様々な活性酸素種に幅広く応答することを示した.例えば,過酸化水素の場合,その検出限界は1 µM程度であることを明らかにした.さらに,このセンサーが活性酸素種依存的なジスルフィド結合の形成に基づいて生物発光シグナルを生起していることを明らかにすると共に,当該生物発光センサーが活性酸素種の濃度変動に対して可逆的に生物発光シグナルを生起することを明らかにした.最後に,この生物発光センサーを用いることにより,細胞への抗がん剤等の投与や紫外線照射で生ずる酸化ストレスを高感度に検出できることを明らかにした.活性酸素種はガンや脳血管疾患など様々な疾患の原因となる鍵因子であると共に,ナノマテリアル・薬物等による毒性作用の原因となる因子でもある.本研究で開発した従来にない全く新しい生物発光センサーは,ライフサイエンスおよびヘルスケアの広い分野に貢献することが期待できる.
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