研究概要 |
研究初年度は,酸性抽出剤をヒノキチオール(Hipt)から同族のβ-ジケトンにまで拡張し,中性配位子として,親油的で水に溶けにくい1,10-フェナントロリン(phen)誘導体,さらに疎水的なトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO),溶媒として,極性のo-ジクロロベンゼン(DCB)と1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド (C4mimTf2N)を用いて,ランタノイド(III)イオン(Ln)の抽出,さらには液体膜輸送実験にも着手した。 1)Hiptと1,10-フェナントロリン誘導体として,4,7-ジメチル-1,10-フェナントロリン (dmp),4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン (dpp)を用い,全Lnの協同効果抽出を検討した。塩基性の高いdmpや,疎水性の高いdppを用いるとphenを用いる時と比べて協同効果が大きくなり,Hipt-dmp系ではLn間の分離係数はこれまでで最大となることが示された。 2)β-ジケトンとして,2-テノイルトリフルオロアセトン(Htta),2-ナフトイルトリフルオロアセトン(Hnta),ベンゾイルアセトン(Hba)を用い,TOPOとの協同効果抽出を研究した。C4mimTf2Nを用いると,ベンゼンなどの有機溶媒系とは全く異なる抽出選択性を示し,協同効果によってLnの抽出効率だけでなく,相互分離効率も高くなることを見出した。特にHba-TOPO-C4mimTf2N系では,Luにおいて最も大きな協同効果が発現し,La,Eu,Lu間の分離が最も大きくなることを明らかにした。 3)Hiptと dpp を含むDCB溶液を疎水性ポリビニリデンフロリド高分子膜に含浸させ液体膜(SLM)を調製した。SLMを供給相と受容相の二種類の水相で挟み,供給相中の金属イオンをSLM内の抽出試薬によって抽出し,受容相で逆抽出することによって,La,Eu,Luイオンが輸送できた。供給相の減少率と受容相への輸送率は等しく,理想的なイオン輸送ができ,8時間で99 % 以上の輸送に成功した。
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