これまでに,水溶液中に分散させた油滴をレーザーにより捕捉し融合させる際の温度の影響について検討し、温度を上昇させることで融合できることを示した。また、Z偏光素子を用いて光渦ビームを発生させ、油相に分散させた水滴を捕捉することに成功した。しかし、このとき、中心部の径が小さすぎるため、水滴をビームの進行方向に押す力が発生してしまい、安定した捕捉が困難であった。 そこで今年度は流路の表面を疎水化し、疎水性表面に水滴を押し付けることで安定した捕捉を実現することを試みた。種々の疎水性コーティング剤を用いて流路表面を疎水化したところ、水滴に対して大きな接触角を与える表面処理を実現することができた。この流路内で水滴を光渦ビームの中心に捕捉し操作しようと試みたが、疎水性表面と水滴との反発力が小さく、表面に付着した水滴を移動させることは困難であった。これは水滴を作製する際の界面活性剤が水滴表面に疎水部を向けているためであると予想された。したがって、安定した水滴の捕捉、操作を実現するためには、界面活性剤を用いずに有機相内で水滴を作製し、これを捕捉、融合させる必要があると考えられた。 この目的を達成するためには、水滴の作製、捕捉を実現できるマイクロ流体デバイスの設計と作製が必要であると考えられた。したがって、ポリジメチルシロキサンによるマイクロ流体デバイスの作製法について検討し、良好なデバイスを作製することに成功した。今後、液滴作製用の流路と液滴操作用の流路を備えたマイクロ流体デバイスを作製することで、有機相内での水滴や細胞の捕捉と融合が実現できるものと期待している。
|