研究課題/領域番号 |
25620117
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今任 稔彦 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50117066)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 液体半導体 / 電気化学発光 / マイクロフロー分析 |
研究概要 |
H25年度は液体発光の基礎的な性質を理解するために、発光分子の溶液中での光物性および電気化学特性を評価した。発光分子として、近年開発された熱活性型遅延蛍光を示すジシアノベンゼンとカルバゾール骨格から構成されるドナー―アクセプター型分子を用いた。この分子は室温で、励起3重項状態から励起1重項状態へと容易に逆系間交差が起こるという特徴を有しており、これは発光効率に関して、正孔-電子再結合やイオン間の電荷移動を経る発光に非常に有利に働く。なぜならば、これらの電荷移動によって生じる励起状態の1重項と3重項の比は、スピン統計則に従って、1:3であり、通常、3重項の励起子は発光に寄与できないが、熱活性遅延蛍光分子では逆系間交差によって3重項状態の励起子も発光に寄与できるので、非常に高効率な電解発光が期待できる。 サイクリックボルタンメトリー測定からカソード側でジシアノベンゼン基に由来する準可逆的な還元波が観察された。一方で、アノード側への掃引では非可逆的なカルバゾリル基の酸化電流が観測され、これはポリマー形成が原因である。しかしながら、重合するにも関わらず、矩形波電圧を印加する事で強い電解を観察することが可能であった。電解発光の効率と蛍光量子収率を比較したところ、両者ともに約50%となり非常に高効率の電解発光が観察され、逆系間交差が電解発光でも有効であることを示した。しかしながら、電圧印加のくりかえしによってポリマー被膜が形成し、発光強度が減少していった。この重合はカルバゾリル基の3,6位のラジカルが起点となり起こると知られているので、重合の抑制を目的とて、カルバゾリルの3,6位に tert-butyl基を導入したところ重合の抑制が可能となり、安定な発光が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに非常にに高効率でかつ安定に発光する分子を合成することができた。さらに、溶媒が発光特性に及ぼす影響を見出している。この分子とその光物性や電気化学特性といった基礎的な知見はデバイスの作製に関して有意義な指針を与えるものである。よってこれらの知見を利用することによって最終目的であるフロー分析への応用への到達を加速させると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終的に光源としての発光フローセルと蛍光イムノアッセイ測定用のサンプルフローセルを組み合わせる。そこで、まず、電解フローシステムを作製し、有機半導体溶液の流動条件における電界発光特性の検討を行う。具体的には流速による発光の強度や安定性を見積もり、フロー蛍光分析に必要な発光強度を与える流路幅や発光面積の設計を行う。 光検出部には有機薄膜フォトダイオードを用いる。サンプル用流路はポリジメチルシロキサンを用いて作製する。電界発光の光源となる流路およびイムノアッセイを 行う流路を平行に作製する。流路は、長さ約50 mm、幅1 mm、深さ約100 m程度のものを基本とし、種々異なる流路を作製する。特に、2本の流路間の距離は蛍光を照射するので重要な因子となるので、種々検討する 。有機フォトダイオードは、フタロシアニン銅(II)錯体とフラーレンとの蒸着薄膜をダブルヘテロ接続してディバイスを作製する。本システムの性能を評価するために、イムノグロブリンA(IgA)を分析対象として、抗IgA抗体を固定化した磁気ビーズを一方の流路に導入し、下部の磁石で捕捉する。イムノアッセイのプロトコルにしたがって、試料のIgA溶液、洗浄液、ブロッキング液、西洋わさび(HRP)標識2次IgA抗体、洗浄液、HRPの発蛍光性基質であるアンプレックスレッド溶液を順に送液し、生成するレゾルフィンの蛍光を有機フォトダイオードで測定する分析システムを開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に電気化学発光材料として熱活性型遅延蛍光材料について検討したところ、従来の電気化学発光材料として知られているルテニウム錯体に比べて極めて高い発光効率を示すことが分かった。そのため、熱活性型遅延蛍光材料について系統的な探索や合成あるいは依頼合成のために費用と時間を要すると判断したため、次年度の経費として残すことにした。 次年度は、電気化学発光材料として熱活性型遅延蛍光材料について、その化学構造と発光特性との関係を調べ、本研究の目的のために高輝度の材料を探索、合成する。同時に、これら発光材料を用いたフロー分析法の確立を行う予定である。
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