研究実績の概要 |
昨年度の結果より、熱活性型遅延蛍光材料は、高効率な電気化学発光を与えることが分かった。特に、ジシアノベンゼンとカルバゾリル基から構成される分子(4CzIPN)は50%に近い発光効率を与えた。しかしながら、電極上での酸化によって生成するラジカルカチオンが重合することによって、電極表面にポリマー膜が形成された。これに伴い、電極が不活性化され、時間とともに、発光強度の減少が観察された。そこで、より安定な熱活性型遅延蛍光分を電気化学発光に用いるべく、ラジカルカチオンの安定性の向上を目的とし、カルバゾリル基の3,6位にmetyl, tert-butyl, phenyl基を導入した4CzIPNの誘導体、4CzIPN-Me, 4CzIPN-t-Bu, 4CzIPN-Phを合成し、その電気化学発光特性を系統的に評価した。結果として、4CzIPN-t-Buと4CzIPN-Phで安定な電気化学発光が得られた(50回の矩形波電圧印加による発光強度の減少は10%以内)。4CzIPN-Meでは、4CzIPNと比較してラジカルの重合は抑制されたが、発光強度が30%程度減少した。発光効率では4CzIPN-t-Buで最も高く、40%近い発光効率が得られた。 同時に、TbやEuといった希土類錯体を用いた電気化学発光についての検討を行った。これら錯体の発光スペクトルの半値幅は非常に小さく、光学フィルター等が不要な発光光源として期待される。サイクリックボルタンメトリー測定を行うと、これらの錯体のラジカルイオンは不安定であることが分かった。そこでペルオキシ二硫酸をcoreactantとして添加した場合、半値幅の狭い(8 nm)電気化学発光が観察された。この電気化学発光を吸光分析の光源に応用し、モリブドリン酸形成によるリン酸の定量を行ったところ、10-100 ppbの範囲でリン酸の定量が可能であることが示された。
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