この約20年間で生命科学研究における有効性が示されてきた2光子顕微鏡技術において、そのほとんどは分子の「蛍光」をモニターする2光子励起蛍光顕微鏡を利用したものであった。この状況で、同じ2光子顕微鏡技術でありながら分子の光吸収とそれに伴う蛍光を利用しない2光子顕微鏡技術が開発されてきた。その一つとして第二高調波発生(Second Harmonic Generation: SHG)を利用した技術がある。これは近年多くの発表の場で用いられるグリーン・レーザー・ポインターの基盤技術であり、様々なレーザー技術に応用されている。SHGイメージングでは分子による光エネルギーの吸収が起こらないため、原理的には観測対象に何の悪影響も与えず観測する事が可能となり、生体現象の可視化には理想的なイメージング法と期待されている。 本研究では無蛍光性SHG色素の開発を目指し、細胞の分子イメージングを専門とする研究者らと共同研究が行われた。まず、分子の励起が起こったとしても無蛍光性エネルギー放射により基底状態に戻る、無蛍光性の色素が考えられた。更にSHGシグナルを発生させ易い構造を持たせる事により、無蛍光性SHG専用色素がデザイン・合成された。SHGは非対称性の高い物質中でのみ起こる現象であるため、細胞膜中で分子が反転しないような構造にする必要があった。また、細胞に対する負荷を軽減するため、水溶性で、且つ膜に容易に取り込まれなければならない。 合成された色素にて培養細胞を染色し、2光子顕微鏡によりSHGシグナルおよび2光子励起蛍光シグナルを観測したところ、期待通り、蛍光が全く発生せずにSHGシグナルが顕著に発生した。これは無蛍光性SHG色素という目的のために開発された色素として初めての例となる。本研究で開発された分子により、生命科学におけるSHG細胞イメージングの有用性が飛躍的に向上すると期待される。
|