研究課題/領域番号 |
25620124
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岸村 顕広 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70422326)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ポリイオンコンプレックス / ベシクル / 分子クラウディング / ナノ空間 / タンパク質 / 酵素 |
研究概要 |
本研究課題では、PICsomeを用いたクラウディング型ナノコンパートメントの開発を目指して、主に三つの研究項目、①クラウディング剤の封入条件の検討、②酵素活性の定量、③PICsome粒径とクラウディング効果の相関評価、に取り組んでいる。平成25年度は、以下の項目について検討を行った。 1.クラウディング剤封入条件の検討: PICsomeは、外力により小さなポリイオンコンプレックス(PIC)にばらけるが、外力を取り除くと再生する。この性質に基づき、PICsomeに酵素を封入した後にPICからなるベシクル壁を部分架橋し、酵素を漏れ出ないようにした状態で、外部から物理的な力(渦流撹拌や弱い超音波)を与え、内部に物質を押し込むことで、いわゆるクラウディング剤をPICsome内部へと導入する。PICsome封入に実績があり基質ライブラリの充実した酵素であるβ-galactosidaseをモデル系として選び、粒径120 nm程度のPICsomeに封入した。続いて、これら酵素が漏れ出さず、クラウディング剤を押し込める部分架橋条件を見出し、特にPEGをクラウディング剤として分子量や濃度を変えつつ、PICsomeへの充填を行うことができた。これらは、限外ろ過により、精製が可能であった。 2.酵素活性の定量:一部のβ-galactosidaseのみを蛍光ラベル化し、酵素活性の定量を行った。市販の基質を用いてその吸収強度を測定し、反応速度論解析を行った。その結果、クラウディング条件においても酵素活性の評価が可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、PICsomeを用いたクラウディング型ナノコンパートメントの開発について、主に三つの研究項目、①クラウディング剤の封入条件の検討、②酵素活性の定量、③PICsome粒径とクラウディング効果の相関評価、を設定しており、平成25年度においては、上述したように研究項目①と②に関する内容については首尾よく進めることができ、ほぼ計画に沿った形で研究を遂行することができた。これらの成果を通じ、次年度に予定している内容、すなわち、研究項目②と③を実施するための準備を整えることができたと判断できるため、本年度の達成度は非常に良好と言え、概ね順調に進展していると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
上述したとおり、平成25年度の計画は首尾よく進められたことから、当初計画通り平成26年度の実施計画の遂行に取り組む。平成26年度は、前掲の研究項目②のうち、酵素寿命・最大処理量、過酷環境における安定性などに関してクラウディング状態の効果を見る評価を強力に推し進め、目標達成を目指す。並行して③のPICsomeの粒径依存性についての検討を進めていく。さらに、クラウディング剤の種類の影響も調べ、特にバイオマテリアルとして利用されている生体適合性ポリマーを中心に評価を進める予定である。 1.酵素活性の定量:平成25年度に続き、酵素の処理能力・寿命などに力点を置き、評価を進める。温度、イオン強度、pHの影響なども合わせて検討する。このほか、一般的なクラウディング剤に加え、タンパク質吸着抑制ポリマーや生体適合性ポリマー(MPCポリマー、poly(HEMA)、ポリオキサゾリン、ポリビニルピロリドン)、あるいは、内包酵素との相互作用がないが荷電を有するようなポリマーに関してもそのクラウディング効果を検討する。また、β-galactosidaseとは反応機構が異なる酵素反応についてもクラウディング効果を検討し、本手法の適用範囲を探る予定である。また、余力があれば、さらに発展的な内容として、二種の酵素を封入したカスケード反応に対する効果についても検討を行う。 2.PICsome粒径とクラウディング効果の相関評価: PICsome粒径を変化させての検討を行う。これまでに、PICsome粒径については、70~400 nmの範囲でチューニングでき、いずれもユニラメラ型ベシクルとして狭い粒度分布で得ることに成功しているのでこの手法を利用する。一方、類似の粒径のPICsomeであってもPICsomeのPEG含有率やPIC膜の厚みが異なる場合があることから、内部の自由体積が異なるケースも考えられる。粒径の効果が見られた場合には、この影響についての評価を視野に入れて研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者が異動直後ということもあり、材料合成や基礎的評価に積極的に実験内容が集中したため、学会発表などの頻度が落ちることとなり、旅費や成果発表費として計上していた費用の一部が未使用となったことが主たる原因と考えられる。また、同様の理由で、当初予定していた測定機器の利用の頻度が落ちたため、こちらも額面が小さくなる結果となった。 平成26年度は、平成25年度にまして積極的に研究成果を発表し、また、機器利用を頻繁に行う予定であるので、旅費、研究成果発表費、機器利用費などを中心として使用することを予定している。
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